故・シラク仏大統領「日本との出会いがあったからこそ当選できた」と発言

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サントリーが買収し育ててきた赤ワイン

 その時のメニューである。

 サーモンのカルパッチョ、キャビア、サラダの取り合わせ
 鶏のササミ、ジロール茸と共に
 ポテトのサラダ
 チーズ
 パイナップルのシャーベット

 ボーヌ第1級 クロ・デ・ムーシュ 90年
 シャトー・ラグランジュ 88年
 シャンパン ブリュノ・パイヤール 90年

 昼だから軽めだ。サーモンに合わせた白の〈クロ・デ・ムーシュ〉はブルゴーニュ地方の2番手。赤の〈シャトー・ラグランジュ〉はボルドー地方メドックの第3級。当時、エリゼ宮が現職の首相に供するレベルのワインである。

 ただ赤ワインはただのワインではない。日本のサントリーが83年に買収し、育ててきた一本だ。欧米企業以外の外資の買収を仏政府が認めた最初の事例で、買収までには「日本企業がフランス文化を侵略」といった批判記事が仏紙を飾った。しかしサントリーは買収後、地道にテコ入れし、買収前は「第3級のレベルに届かない」と言われていたこのワインは、逆に「第2級相当の実力をもつ」とまで言われるようになった。

 この昼食会はサントリーの買収から20年。大統領は日本の企業が所有するワイナリーの20周年を橋本氏と共に祝おうと考えたのだろう。恐らく昼食会でこのワインに言及したことだろう。

 米主導のイラク戦争が5月に終わったばかりの時だった。シラク大統領は日本の国会議員を前に、米国の単独行動主義を盛んに批判した。黙って聞いていた橋本氏がちゃちゃを入れた。「でもその米国を生んだのはフランスでしょう。文句言いなさんな」。米国の対英独立戦争をフランスが支援し、米独立に大きな貢献をした史実を引き合いに皮肉ったのだ。シラク大統領は苦笑いするしかなかった。こうした橋本氏の機知にとんだ突っ込みを大統領も好んだ。橋本氏が06年に亡くなったときは、「広く文化に精通し、国際情勢に対する秀でた知識と豊富な経験の持ち主だった」と、その死を悼む大統領声明を出している。

西川恵

2019年10月2日掲載

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