ZOZO前澤氏の美談に隠された“火の車” なぜ当局はインサイダー疑惑に斬り込まない?

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いくら残せた?

 最終的に、投資家・前澤氏はいくらキャッシュを残せたのか。

「株価が2千円を下回ると2千円へと常に反発する動きを続けてきました。私はこのことから、ZOZO株の2千円というラインは前澤氏の資金繰りにおける生命線だったのではないかと考えています。これを前提にすると、前澤氏の保有株数の評価額は2194億円で所得税約20%を差し引いて手元に残るのは1748億円。前澤氏は、その額だけはどうしても死守したかったということです。裏返せば、宇宙旅行関連代金の支払い債務も含めた個人的な借金が1700億円ほどあったのではないかと考えられます。また、ヤフーによる今回の最大買取価格は2620円と計算されるので、同様に前澤氏の手元に残る金額を試算すると2291億円になります。つまり、前澤氏は宇宙旅行代金を払って、かつ借金をすべて返しても、更に600億円弱のキャッシュを残すことができるわけです。これは彼にとって悪くありません」(先の細野氏)

 洋服への愛情はさほど深いわけではなく、それとはおよそ関係のない球団買収発言や女優との交際というプライベートの切り売りで株価を吊り上げる一方で、株を担保にカネを借り、現代アート蒐集や民間人初の月旅行計画に耽溺する。額の差こそあれIT長者の典型で、今回の電撃身売りという本業投げ出しもまた、その系譜に属するものかもしれない。今後は経営合理化の圧力が強まり、ZOZOの社員たちがリストラに遭う可能性は否めない。「社員は家族」という前澤氏の言葉は儚いばかりだ。

「若くして成功するベンチャーの経営者によく見られるのですが、成功過程においては『B to C』(消費者向け)で成功しても、一定規模以上の企業体となると必然的に求められる『B to B』(法人向け)のビジネスに対応できなくなるという現象だったと思います。彼もそのよくあるパターンの経営者であったと評価せざるを得ません」(細野氏)

 前澤氏当人はこう答える。

「ご指摘の株担保ローンについては、株価の変動によって強制的に株式が売却されるようなものではなく、株価の変動リスクも考慮された取引となっております。契約期間中、一度も金融機関からローンの返済要求はありませんし、株の強制売却の話も一切ありません。2千億円はおそらく担保に入れている株式の担保価値を指しているものと思われます。借入額は2千億円もありません」

 これについて、先の金融関係者に改めて尋ねると、

「う~ん、前澤さんの話は鵜呑みにはできません。事実、ZOZOの株価が下がるにつれ前澤さんが差し出す担保の割合は増え、90%弱にまで至ったわけですし。銀行はそんなに甘くはありませんよ。株価が下げ止まったお蔭で命拾いをしたと見るべきでしょう」

 ゆく河の流れに人生を見たのが鴨長明なら、目の前を行く商品の流れに手数料だけを見たのが前澤氏。「新しい人生」と口にさせたのは、捨てた人生の空しさだったのだろうか。

週刊新潮 2019年9月26日号掲載

特集「2千億円も何に使った!? ZOZO『前澤社長』涙と美談に隠された『火の車』」より

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