ZOZO前澤氏の美談に隠された“火の車” なぜ当局はインサイダー疑惑に斬り込まない?

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600億円のキャッシュ

 経済アナリストの森永卓郎氏は、こんな見方をする。

「前澤さん自身、かなりの高値で持ち株を売り抜けているとは言えるでしょう。今年のZOZO株の最安値が1600円台の中、唯一TOBしてくれそうなヤフー相手に、2620円で売却するわけです。昨年の自社株買いなどからも判断するに、前澤さんは『投資家』だったんでしょうね。社員相手には“楽しんで仕事しようぜ”とか“お金なんて関係ない”と言っていた裏で、その後の業績悪化のリスクを見越した上で、自分のキャッシュを確定させたかったということではないでしょうか」

 ZOZOの窮状と軌を一にして、投資家・前澤氏自身も同様に、自身が保有するZOZO株を銀行に担保として差し出してきた。株式ストラテジストの中西文行氏によると、

「市場の常識として、オーナー企業の経営者が自分の会社の株を金融機関に差し出すというのは、何か余程の事情があって資金繰りに窮していると判断されます」

 金融機関関係者が後を受け、解説する。

「銀行が株を担保に資金を融通する場合、株の価値が目減りしてしまうと担保の用をなさなくなります。なので、貸し出す際に、いくつか条件をつけるわけです。たとえば、一定の株価より値下がりしたら追加で担保を差し出してもらいますとか、一括で債務を返済してもらいますとか、場合によっては強制的に市場で処分させてもらいます、などというもの。前澤さんの場合も、宇宙旅行の準備や現代アートなどを購入する費用を捻出するため、銀行に自社株を担保に差し出して2千億円を超える借入を行なったと言われています。ただ、ZOZO株はピーク時の半分以下にまで下がっていたわけですから、銀行から何らかのペナルティを突き付けられていた可能性があります」

 実際、18年10月の段階では持ち株(発行済株式全体の約45%)の75%を担保に差し出し、その評価額は2300億円を超えていたのだが、19年2月、株価の下落を受け、持ち株の86%が担保と急増させている。

 もっとも、この担保率は今年5月下旬を境に減少し、8月に入って60%弱になった。先に触れた身売りのための“環境整備”とはこの事実を指すわけだが、要するに、担保として差し入れていた株を前澤氏側に戻した恰好なのだ。

「株価の下落などを理由に金融機関から債務の返済を迫られ、前澤氏がそれを進めた結果、20%程の担保が解除された可能性があります。ざっと500億円弱ですから、お気に入りの現代アートを売っても焼け石に水。身売りするには株が手元になくてはならないので、ヤフーへの売却を前提に、孫正義さんの手を借りたのかもしれません」(同)

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