BPOが迷走 “鈴木宗男選挙報道”をやり玉に挙げる狙い

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できもしない政治的公平

 政治的公平といえば、思い出されるのは2016年2月、当時の高市早苗総務相(58)の言葉だ。高市氏は「政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波を停止できる」と発言。するとBPOは強く反発した。これもBPOが放送法4条を倫理規範に過ぎないと考えていたから。それを考えると、「今日ドキッ!」で審議入りするBPOは以前と変質した気がする。

 BPOの現在の姿勢に影響をおよぼしているかどうかは定かではないが、今年4月から放送倫理検証委員会はメンバーが入れ替わった。リベラル色が色濃いように映った映画監督の是枝裕和・委員長代行(57)や骨太の反権力ジャーナリストとして知られる斎藤貴男委員(61)らが今年3月で退任した。2007年に放送倫理検証委員会が発足して以来、一かじ取り役を務めた弁護士の川端和治前委員長(73)も2018年3月に退任している。NHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員は視聴者とは無縁のところで決まるが、BPOの委員もまたそうなのだ。

 話を政治的公平に戻す。多くの先進国のテレビ界には政治的公平など求められていない。米国のフェアネス・ドクトリン(公平原則)は1987年に廃止された。政治的に公平な放送の実現などそもそも不可能に近いことなどが理由だ。

 事実、日本の与党支持者も野党支持者も多くが「テレビ報道は公平ではない」と考えているに違いない。誰もが公平と思う政治報道の実現など至難の業なのである。

 小泉進次郎環境相(38)ばかりをワイドショー、ニュースが連日取り上げる現状が、政治的に公平であるはずがない。それでもテレビ報道が許されてきたのは、政治的公平とはもともと曖昧なものであり、それを厳密化しようとすると、報道の自由が阻害されかねないからである。

 できもしない政治的公平が、テレビ界を縛り続けると、政府・与党の思うつぼだろう。「政治的公平ではない」とクレームを付けるのは簡単なのだから。抗議を受けたテレビ局側は「政治や選挙は扱わないほうが無難」となってゆきかねない。

 日本は2017年、報道の専門家である国連のデイヴィッド・ケイ特別報告者から、放送法4条の廃止を勧告された。ケイ氏は「4条は報道規制につながる」と厳しく非難している。事実、政府・与党側は4条を使えば、気にくわない報道をするテレビ局に対し、「政治的に公平ではない」と、行政指導することも可能。停波に追い込むことも出来る仕組みなのだ。こんな権力側に都合のいい法律、ほかの先進国にはない。

 高市早苗氏は再び総務相となった。前出の元民放取締役は「またテレビに目を光らせるのではないか」と語る。後ろ盾とささやかれているのは総務族の実力者・菅義偉官房長官(70)である。「憲法改正に向けて、まずテレビを黙らせるつもりなのかもしれない」(同。元民放取締役)。そうなった際、政府・与党が駆使するツールとなるのは放送法4条にほかならないだろう。

「今日ドキッ!」の審議の行方、それに対する政府の反応から目が離せない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

週刊新潮 2019年9月24日掲載

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