人は耳から衰える… 「認知症」「うつ病」を引き起こす「加齢性難聴」対処法

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脳のリハビリ

 誤解されがちだが、老眼に悩む人が老眼鏡をかけるのと、難聴の人が補聴器をつけるのでは、全く意味合いが異なる。

「確かに、近眼や老眼の場合は、メガネをかけて物理的に矯正すれば見えやすくなります。しかし、加齢性難聴は、音を感じるセンサーの能力自体が落ちてしまっている。目でいえば近視ではなく、弱視のような状態なのです」

 とは、慶應義塾大学医学部・耳鼻咽喉科教授の小川郁医師の弁。

「難聴の人が補聴器をつけるのは単に耳に届く音を大きくするためではなく、脳をトレーニングして聞こえを補うため。その意味で、補聴器は脳のリハビリに他なりません」(同)

 済生会宇都宮病院で耳鼻咽喉科主任診療科長を務める新田(しんでん)清一氏が言葉を継ぐ。

「有毛細胞は再生しないため、失われた聴力が回復することはありません。ただ、興味深いデータもあるのです。両耳の聴力が同じ程度の難聴患者に、片耳だけ補聴器をつけてもらう。すると、補聴器をつけた耳だけ“言葉を聞き取る能力”が維持されていた。聴力が衰えても、脳を刺激することで言葉を聞き取る能力は保持できるのです」

 だが、理解不足から、現在の日本では補聴器が広く普及しているとは言い難い。

 実際、難聴者のうち補聴器を使用しているのはわずか14%。普及率が50%近いイギリスと比べれば3分の1にも満たない数字だ。

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