バイきんぐ「小峠」のツッコミはなぜ面白いのか バラエティ界のこんまり説

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 今から10年ほど前、ピン芸日本一を決める『R-1ぐらんぷり』の予選会場で1人の芸人のネタを見た。坊主頭で強面の男が、コンビニで買ってきたスイーツを食べて、いかにもクレームをつけそうな雰囲気で電話をかけて「どうなってんだよ! ウマすぎるんだよ!」とひたすらそのおいしさを絶賛するというネタだった。自らのいかつい外見をも巧みに利用したネタにうならされた。その芸人というのが、当時無名だったバイきんぐの小峠英二である。

 ここ数年、小峠のテレビ出演の機会がじわじわと増え続けている。テレビに出始めの頃はさまざまなバラエティ番組に単発ゲストとして出演していたのだが、最近では深夜枠を中心にMCを任される機会も増えてきた。現在も『超人女子戦士 ガリベンガーV』『ヤバい話のHow Much?~ヤバい法律相談~』(共にテレビ朝日系)などでMCを務めている。

 バイきんぐが世に出たきっかけは、2012年にコント日本一を決めるお笑いコンテスト『キングオブコント』で優勝したことだった。バイきんぐは当時、お笑いライブシーンではすでに注目の存在だった。そんな彼らは大舞台で自分たちの力を出し切り、チャンスをものにした。このときにはコントの面白さはもちろん、小峠の「なんて日だ!」「なんて言えばいい!」といった独創的なツッコミフレーズが話題になった。

 小峠のツッコミがあれほど面白い理由の1つは、それがどの地方の方言でもない、独特のイントネーションを持っているからだ。彼は福岡県で生まれ育ち、大阪に出て吉本興業のお笑い養成所「NSC大阪」に入り、そこを卒業して芸人として活動を始めた。その後、東京に出てきて、いくつかの事務所を転々とした後、現在の所属事務所であるSMAに落ち着いた。そんな経歴を持つ小峠の話す言葉は、福岡でも大阪でも東京でもない、「小峠弁」とでも呼ぶしかないような独自のイントネーションを持っている。それが見た目の得体の知れなさと相まって強烈な印象を残すのである。

 ただ、フレーズばかりが注目されるのは芸人にとって諸刃の剣である。一発ギャグのようにそのフレーズだけが独り歩きしてしまうと、ブームが終わったときにフレーズと一緒に本人も消えていってしまう恐れがある。バイきんぐもそうなってしまう危険性は十分にあった。

 だが、そうはならなかった。強烈なツッコミを持つ小峠は、意外にも「イジられキャラ」として脚光を浴びることになった。さまざまなバラエティ番組でドッキリに引っ掛けられたり、先輩芸人からイジられたりした。そうやって理不尽な目に遭ったときの彼のリアクションが絶品だった。『キングオブコント』で優勝した時点ですでに30代後半だった小峠の哀愁を帯びた表情や、高らかに響く負け犬の遠吠えのようなツッコミフレーズが、多くの視聴者を爆笑の渦に叩き込んだ。

「イジられキャラ」としての使命をまっとうした小峠は、過去には「ドッキリに引っかかった回数ランキング」で2年連続の1位になったこともあった。

 ただ、それからも彼の勢いは止まらなかった。いつしか小峠は番組のMCを任されるようになっていた。そこでもきっちり結果を出し続け、今では司会者としても多くのスタッフから信頼される存在になっている。

 MCに必要な資質とは、収録中に何が起こってもどっしり構えていて、それを淡々と処理していく技術と根性だ。小峠のクセのある破壊力抜群のツッコミは、スベってしまった人の処理に特に真価を発揮する。彼がサブMCを務めている深夜番組『有田ジェネレーション』(TBS系)では、未熟な芸人が身の程知らずの荒々しい芸を見せて大スベリすることも多い。そういうときには、小峠がすかさず「あおり運転男」のような勢いで猛然と彼らに詰め寄り、厳しい言葉を投げかけることで、見事にその場を収めている。

 散らかった状況を強いツッコミでビシッと締めてまとめてしまう小峠は「バラエティ界のこんまり」のような存在だ。これからもプロの片づけ人としての仕事は増え続けるだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年9月3日掲載

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