「鈴木大地」スポーツ庁長官に訊く 高校野球が抱える深刻な問題点

スポーツ 2019年8月31日掲載

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 今年に入ってにわかに高校野球への提言を積極的に行っている鈴木大地・スポーツ庁長官(52)に、その真意や背景を聞くため、「夏の甲子園」が閉幕してすぐの8月26日、スポーツ庁の長官室を訪ねた。(文/小林信也)

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小林:野球の経験はおありなんですか?

鈴木:小学校のころ、放課後の遊びですけど。ピッチャーとかセンターとかやっていました。

小林:鈴木長官が最近、積極的に高校野球への提言をされているので驚いています。

鈴木:最近じゃないんです。世の中の関心が高まって報道も増えたのでそう見えるのでしょうが、実はもう2年前からアクションを起こしています。最初は高野連に足を運んでいろんな会話をしました。昨年は朝日新聞で、王貞治さん(79)とも対談しています。高校野球だけでなく、野球を改革する必要性を感じて、いろいろな人と会って来ました。プロ野球関係者とも会っています。

小林:それは、野球そして高校野球が変わるべきだというお考えがあってですか?

鈴木:部活の見直しも私たちの大切な仕事です。野球部は部活動の中心的な存在ですから、野球部が変わると部活全体も変わるだろうと考えました。

小林:いま日本で野球をやっている高校球児は、ほぼ100パーセント、高校の部活で野球をやります。中学生は熱心な野球少年ほど部活でなくリトルシニアやボーイズなどクラブチームに入るのが主流なのに、高校ではみんな学校の部活。甲子園を目指すには、高校でやる以外に道がないからです。甲子園を目指さない高校球児がいても良さそうですが、プロ野球界も、甲子園を目指す野球から外れた球児は評価しない印象がなんとなくあります。それが日本の野球界の空気です。

鈴木:高校生が自分の競技環境をもっと自由に選べるほうが健全ではないか、高校球児はクラブチームか部活かを選ぶこともできない、それが不思議でたまりません。水泳でいえば、1964年の東京五輪当時の感覚です。あのころは水泳も高校の部活しかなかった。東京五輪のあと、スイミングクラブができて競技力が向上してきた。高校球児は自分に合ったチームを選べる環境が十分ではありません。もっと自然な選択肢を作ってあげたいんです。

小林:プロ野球チームが、サッカーJリーグのユースのような組織を作ったらいいんじゃないかと提言されました。具体的に動き出しそうですか?

鈴木:興味を持ってくれるところはあると思います。ひとつの願いは選手の健康管理です。高校野球が終わったら、肩が痛くてもう野球ができない、燃え尽き症候群でやる気もしない、そんな状況はなくしたいんです。もしプロがユースのチームを作ったら、将来、自分たちの戦力になる素材を、成長過程の高校年代に、あんなに投げさせないでしょう。海外の見識からしたら、すごくおかしい話です。

小林:海外といえば、キューバに視察にいらしたのですか?

鈴木:6月に行って来ました。野球だけでなく、他のスポーツや健康増進を含めたスポーツ全体の視察ですが、野球の状況もかなり見てきました。

小林:いちばん印象に残ったのは何ですか。

鈴木:指導者がみんなライセンスを持っていて、医科学や心理学も学んでいるんですね。コーチたちが、選手をやる気にさせる勉強をしている。10代の半ばまでポジションは決めない。これは面白いな、と思いました。いくつものポジションを自由に経験させる。

小林:可能性を早い段階で狭めない。

鈴木:高野連の方々は「高校野球は教育の一環ですから」とおっしゃる。教育の一環だとすれば、特定の選手だけが活躍するのでなく、部員全員にチャンスのある環境を作ったほうがいいでしょう。

小林:公立高校も含めて、部員が100人前後いるチームがたくさんあります。多くの選手は、一度も試合用のユニフォームを着ないまま卒業します。

鈴木:高野連の話では、約15万人いる選手のうち、試合に出られるのは5万人くらいだと。

小林:甲子園に出ること、甲子園で勝つことに、高校野球の目的が集中してしまって、レギュラーになれない高校生たちに十分な配慮がされていない、これは大きな課題だと思います。

 鈴木大地長官が水泳男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲った1988年ソウル五輪の前後に取材させてもらったスポーツライターの印象から言えば、鈴木大地長官は幸せな環境で選手生活を送っていた。パワハラとか、高校球児が感じている苦しさを、知らないんじゃないかと思っていました。

鈴木:そうでもないですよ(苦笑)。

小林:野球界から見たら、コーチの考え方がすごく斬新で科学的、それでいて大地君の感性を大事にしていた、羨ましいと思いました。

鈴木:指導者の考え方は、進んでいたと思います。

小林:だから、パワハラ的な体質は経験していないのかと思っていました。

鈴木:そんなことはありません。水泳界も、私が子どものころは厳しかった。

小林:本当ですか?

鈴木:我々がコーチに教えてあげたと思っています。厳しくしてもタイムは伸びないぞと。厳しくされた後にタイムを出すと、また厳しくされるから、そういう時は絶対にいいタイムを出さないように泳ぎました(笑い)。

小林:それはビックリ。金メダルを獲る選手は、考え方というか、器が違ったのですね。

鈴木:コーチに関していえば、選手と共に常に勉強し、成長していくようなコーチこそがメダリストを育てるようなコーチになるんだろうと思います。

小林:そんな風に考えて実行できる選手は、高校野球には滅多にいません。いや、ごく一部はいるのかな。

鈴木:水泳界もかつては、クラブの移籍ができなかった。クラブを辞めたら水泳を辞めるしかない。いまは改善されて、移籍できるようになりました。選手がコーチや環境を自由に選べる時代になったんですね。選手が指導者を選べる。そうすると、指導者も変わるし、環境が良くなります。水泳はそれもあって強くなったと感じています。

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