富士急行「高速バス運転手」の“居眠り動画” 撮影した乗客は会社の対応にも不満……

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誠意が感じられない対応

 そこで「いざとなったら自分が運転席に飛び込み、ハンドルを握ってブレーキを踏もう」と考え、不測の事態が起きた時の証拠にしようと動画を撮影することにした。

「運転手さんが目を覚ましたり、頭をガクガク揺らしたりを繰り返しても、バスのスピードは全く変わりませんでした。デジタル表示された速度が一定値を示しているのも見えたので、スピードを自動制御する『オートクルーズ』になっているんだろうと判断しました」

 男性は「席を立ち、運転手さんの顔を撮影すれば証拠能力は高くなるだろう」とも考えたが、それは自粛したという。

「警察に通報するつもりはなかったですし、運転手さんの名札が車内に掲示されていて、それは撮影できていました。また運転手さんが撮影に気づいてショックを受け、ハンドル操作を誤り、交通事故が起きてしまうことも懸念しました。同じように、私の撮影で中国人観光客の方々が居眠り運転に気づかれても、パニックが起きてしまうのではないかと思いました」

 撮影を終えると、男性は突発的なアクシデントに備え、運転手の一挙手一投足に注目したという。だが、渋谷に近づくにつれ、運転手は目を覚ましていった。

「高速道路が渋滞していたことが幸いしました。順調に流れている時は眠気に苦しんでいるようでしたが、のろのろ運転になって目を覚ましたようです。その後は事故の不安も消え、無事に渋谷マークシティへ到着しました」

 バスの運転手は何事もなかったように運転を終えた。乗客も普通にバスを降りた。男性も都内の自宅へ戻ったのだが、撮影した動画を改めて見て驚愕したという。

「不思議なもので、自分の目で運転手さんの居眠り運転を見ていた時より、動画のほうが恐怖を感じたんです。『こんなに危険な状況だったんだ』と再認識したんですね。そこで、『これは会社に通報したほうがいい』と考え、領収証に書いてあった電話番号に連絡をしました」

 26日の午後4時ごろに電話をすると、女性が応対した。バスの運転手が居眠り運転をしていたと説明すると、「ええっ!?」と驚き、「上司から電話させる」と言った。落ち着いた対応だったが、動揺を隠している気配も感じたという。

「50分後、私の携帯が鳴りました。担当者の男性が『申し訳ありませんでした』と謝罪され、『あらましを教えてほしい』というようなことを言われました。そこで車内の一部始終を説明しました。私が動画を撮影したことも伝えましたが、担当者の方は、ドライブレコーダーで運転手さんの様子は記録しており、併せて事情聴取も行うと教えてくださいました。そして『調査結果は、お電話でお伝えします』と約束された記憶があります」

 ところが数日が経過しても、全く電話がない。1週間後、改めて富士急行に電話した。

「『先日の件で電話しました』と伝えると、前と同じ声の男性に『どうされましたか?』と訊かれました。自分が電話すると言ったのに、どうされたもないだろうと思い、『連絡をくれるって仰いましたよね』と抗議すると、慌てた気配が伝わってきました。しかし調査結果として、『非常に不自然な運転ですけど、居眠りはしていませんでした』という回答なのです。それはないだろうと思い、いくつか質問をさせてもらったのですが、具体的なことは何も言わない。とにかく『不自然な運転ですが、居眠りではありません』を繰り返すだけでした」

 話が平行線を辿る中、富士急行の担当者が「お客さまはどのような対応を望んでおられるのですか?」と訊いてきたという。

 バスに乗っていた男性は、「事情聴取の内容を知りたい。運転手さんは元気だったのか、それとも健康に問題があったのですか?」と具体的に訊いても、それには答えない。

 担当者は、「事情聴取の結果は資料として残しました。お客さまのご指摘も記録しました。運転手には厳重に注意します」などと、問題をうやむやにしようとする。

 たまらず男性は、「動画を警察やマスコミに見せることもできますが」と言ってみたが、富士急側の対応は全く変わらなかったという。

「やり取りの中で、担当者の方は『もし運転手が眠気を感じたら、サービスエリアやパーキングエリアに臨時停車させ、眠気を覚ますように指導しています』と教えてくれました。それは正しい指導だと思います。ですが実際のバスは、ずっと走り続けていたわけです。ルールがあっても、それが実行できなければ意味がない。あれだけ頭が上下して臨時停車しないのなら指導に意味はない。果たして富士急行という会社は、運転手さんが緊急停車させることを本当に許す社風なのか、それとも実際は、ダイヤ遵守のブラック企業的な側面があるのか、そんなことまで考えてしまいました」

 男性は「これはもう喋っていても埒があかない」と感じ、実際、男性の疑問は全く解消されることなく電話は終わったという。

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