「オリンパス事件」仕立て上げられた「指南役」の収監直前「独占告発」(下)

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【編集部】 8月14日午後1時に出頭せよ、との指示に応じ、横尾宣政氏は3分前に東京・霞が関の検察庁に出頭した。確定した刑期は懲役4年。逮捕以来の異例の966日に及んだ長期勾留が未決勾留期間として差し引かれるため残りは494日、すなわち1年と4カ月強。早期の保釈が認められれば、来年の晩夏あたりには出所が見込まれる。

 だが、本稿(上)冒頭で触れた通り、すでに8月9日に再審請求を行った。歪められた司法手続きを糾す新たな闘いは始まっている。

 また、以下の結びで述べている通り、横尾氏はオリンパスの巨額粉飾を監査法人は間違いなくある時期からは知っていたはずだと断じており、横尾氏に代わって支援者がその証拠とともに監査法人を刑事告発する準備も進めているという。

矛盾だらけの訴因変更

 1審公判の最終段階で、群栄化学工業の有田喜一社長(当時、現会長)が、

「横尾さんと羽田(拓)さんから『新事業3社の資料に記載されている事業計画は、オリンパスの取締役会で承認されています』という説明を受けました。だから事業計画を信用しました。このことは群栄の取締役会で説明しました」

 と証言し、検察はその証言通りに訴因変更申請書を提出しました。

 ところがその時点で、私と羽田君が詐欺罪で追起訴されてから2年7カ月以上が経過しており、時期的限界を超えた訴因変更です。過去に、2年6カ月での訴因変更が却下されている、という判例がありますから、2年7カ月での変更は本来、認められるべきものではないのです。

 しかし、この訴因変更が抱える本当の問題は、次の内容になります。

 訴因変更の内容を証言したのは、私たちを告訴した有田氏本人であり、私たちとは正反対の利害関係にあります。その有田氏の証言は綿密に検証され、証言に矛盾のないことを確認しなければなりません。

 しかし、有田氏の1審での証言内容は、彼の供述調書には一切記載されておらず、群栄化学関係者の供述調書にも一切出てきておりません。もちろん、長期間の公判前整理手続にも出てきておりません。すなわち、公判の最終段階まで、有田氏を含めて誰も証言していなかった内容なのです。

 こうしたきわめて重要な証拠を公判の最終段階で採用請求するには、「(それまで証拠として提出できなかった)やむを得ない事情」の説明が刑事訴訟法上、必要です。しかし、新たな物的証拠が提示された訳でもなく、やむを得ない事情が説明された訳でもありません。

 百歩譲って、忘れていてもおかしくない事実を突然思い出したというのであれば理解できますが、群栄化学との民事裁判で、有田氏は、「訴因変更の内容は、3社株購入を決断した重要な要因だった」、つまり、私と羽田君が「オリンパスの取締役会で承認されている」と説明したことが3社株購入の重要な理由だ、と証言しており、彼にとって忘れられない重要な内容だったことが理解できます。そこまで重要なら、なぜ公判前に検察に対して証言しなかったのでしょうか。そしてなぜ、検察もその「重要な理由」を聞き出そうとしなかったのでしょうか。

 しかも、

「群栄化学の2回の取締役会で、新事業3社の資料を読み上げ、そこに記載されている事業計画がオリンパスの取締役会で承認されていることを説明した」

 という有田証言に対して、群栄化学の取締役会に出席していた宮下雄次氏は、

「事業計画がオリンパスの取締役会で承認されているという説明はなかった」

 と明確に証言しています。

 これは、有田氏によるデッチアゲ証言なのでしょうか。否、私は、これは検察によるデッチアゲだと思っています。このような矛盾だらけの訴因変更を申請することは、検察官による明らかな法令違反です。

 しかも、この矛盾に裁判所も目をつぶったのです。

 私は、日本の裁判所は独立した存在だと思っていましたが、裁判所と検察は一体、蜜月関係なのではないか。むしろどちらかというと、裁判所が検察、特に特捜部に忖度しているのではないか、従属しているのではないかとすら考えてしまいます。それがもっともひどい状況で表れたのが私の裁判であり、訴因変更を承認した1審と2審の裁判官も、法令違反という意味では同罪です。

 30件以上の無罪判決を書かれた元東京高等裁判所総括判事の木谷明弁護士は、『東京新聞』2019年7月6日付けの特集記事「こちら特報部」の中で同様のことをおっしゃっています。

座ったまま顔を伏せ続けて退廷しなかった裁判長

 裁判については、こんなこともありました。

 ジャイラス買収についてですが、かかわっていた中川昭夫氏は入退院を繰り返していたり、英語があまりしゃべれなかったりしたこともあり、実質的な作業のほとんどは佐川肇氏とオリンパスの森久志副社長(当時)がやっていました。

 そんな中川氏の高裁での裁判を、私の弁護人はよく傍聴に行っていました。その内容からすると、どう考えても中川氏が勝つと思っていたそうです。ところが検察は佐川氏を引っ張り出してきて裁判をくっつけ、佐川氏に「中川氏は知っていた」と言わせた。そして中川氏は負けたのです。

 一方私は、高裁での裁判は勝てると確信していました。ところが結審の日、閉廷が宣言されたあとも、裁判長を含む裁判官3人ともが座ったまま、顔を伏せているのです。

 裁判を傍聴したことがある方ならご存じだと思いますが、普通は、毎回、公判が終わって閉廷が宣言されれば、傍聴席も含めて法廷内の全員が起立し、裁判官は真っ先に奥の専用出入り口から退席するのですが、この時は法廷にいる人たち全員が退廷するまで、座ったまま、ずっと顔を伏せているのです。私は「何かあったな」と思いました。

 その後、その裁判長は判決を出す前に「栄転」しました。結審の段階で、すでに栄転(大阪高裁の長官)が内示されていたのかもしれません。顔を伏せていたのは、自ら判決を下すことができなくなって悔しかったのではないだろうか、と思いました。

 また、群栄化学との民事訴訟でも変わったことがありました。実は提起されてから6年間、裁判所はまったく何も動いていなかったのです。

 ところがオリンパス事件の刑事裁判が最高裁に上告された直後、急に「これからスタートだ」と動き始めました。オリンパスの常任監査役だった山田秀雄氏や森氏を長時間証人尋問するなど、積極的になったのです。

 そして、2018年3月28日に判決、ということになりました。その1カ月以上前でしたか、私の弁護士に裁判長から連絡があり、私の意見書のデジタルデータがあれば、それを使いたいとの連絡がありました。

 ところが判決5日前の3月23日になって、弁護士に裁判長から連絡がありました。「判決を2カ月延ばしてほしい」と。

 この日、リニア新幹線の談合疑惑で、大成建設、鹿島建設の役員が独占禁止法違反容疑で東京地検特捜部に起訴されたのです。これは偶然のことなのでしょうか。

 偶然とはとても思えません。では誰がそれをやったのか。森本宏東京地検特捜部長以外にいないと、私は考えています。森本氏はオリンパス事件では、特捜部副部長・主任検事を務めていた。彼がこうした司法の状況を作っているのです。

署名をスキャンして貼り付けた「偽造契約書」

 最後に、組織犯罪処罰法違反についてお話しします。

 私たち3人が同容疑で再々逮捕されたのは、金融商品取引法違反の容疑で逮捕されてから1年4カ月が経過していた時期です。

 逮捕の背景には、私の弁護人が提出した2通の予定主張書面があります。1通は、本稿(中)で述べたリヒテンシュタイン公国のLGT銀行東京駐在事務所長・臼井康広氏の「偽筆」を指摘した書面で、もう1通は、山田氏の供述の嘘を指摘した書面です。

 これらの予定主張書面の内容に狼狽した検察は、関係者の供述調書を作り直す必要に迫られ、組織犯罪処罰法違反の罪を捏造して、時間を作らざるを得なくなったのでしょう。

 そして事実、山田氏、森氏、臼井氏の事情聴取が、実に1年数カ月振りに再開され、翌月に予定されていた初公判は5カ月ずれ込みました。

 ちなみに、検察の言う「組織犯罪処罰法違反」というのは「マネーロンダリング」のことですが、実際には、検察が指摘するようなマネーロンダリングのスキームは実在していません。あくまでも投資信託に関するシンガポールの税制を使った一般的な節税スキームで、しかもそれは私たちが考案したものではなく、すべてLGT銀行が作ってくれたものです。

 マネーロンダリングを立証できない検察が、証拠として提出し、裁判所が証拠採用した「契約書」があります。LGT銀行の元役員ゲルバルト・ウォルチ氏の会社(Nayland)と、LGT銀行が私たちの節税のために用意してくれた会社(Instage)との間で交わされたものです。

 しかし、これはLGT銀行の元役員が、私たちに隠れて捏造したコンサルティング契約であり、本来ならば証拠採用できないはずの代物です。

 当然ですが、私達はこのような契約書の存在を知りませんでした。

 裁判過程で初めて見たこの契約書には、「Instage Limited」の社名の上に「Tripleton Group Limited(恐らく、LGT銀行の関連会社)」という社名が薄く写っています。その下に契約者の署名があるのですが、要するに、「Tripleton Group Limited」という会社での署名をスキャナーで写し取って、この契約書に貼り付けたものなのです。これは誰が見ても明らかにその痕跡が残されているのです。

 このような捏造契約書が私たちの了解の下で作成された契約書とみなされ、私たちがマネーロンダリングを行った証拠として採用された。これも明らかな法令違反です。

 しかも、オリンパスからウォルチ氏に支払われた9億5000万円について、山田氏は「横尾に脅されたから」と供述しました。その理由として氏は、「LGT銀行の臼井氏がオリンパスの粉飾のせいでうつ病になった。だから金を払わないとどうなるか分からない」と私に言われたとするのです。

 ところが、臼井氏のうつ病の診断書や、奥さんが医者に送ったメールが出てきたのでそれを見ると、臼井氏がおかしくなりはじめたのは、ウォルチ氏にお金を振り込むとの連絡が行った7カ月もあとだったことがわかりました。

 さらに臼井氏がうつ病を患った理由は、その段階ですでに運用を止めていたオリンパスのせいではありませんでした。別の顧客から預かった資金の運用に失敗したことがきっかけなのです。その失敗については、臼井氏は私にも小野君にも話してくれていました。私は一度、臼井氏に「そんなことで訴えられるはずはない」と電話したことを記憶しています。

すべてを知っていた監査法人の「罪」

 では、このオリンパス事件で一番悪いのは誰なのか、どこなのか。私はまず、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)だと思っています。

 1992年、当時野村證券浜松支店にいた私に、山田氏から電話がありました。450億円の損失を出した、と言うのです。どうやら、決算対策商品で失敗したようでした。そこで監査法人に対してどうするのか、と問うと、山田氏は「全部話します。そうでないと、(決算、すなわち有価証券報告書を)認めてもらえない」と。さらに、「例年こうしてきたし、これからもそうしていく」というのです。

 ということは、朝日監査法人は、運用失敗で巨額の損失を出していながら、それには全く触れずに監査をして承認していたということになります。つまり長年にわたって、朝日監査法人は粉飾決算を見て見ぬふりをしていたわけです。しかもオリンパスは、粉飾を続けている最中にも平気で社債を発行している。それを許した朝日監査法人の責任は重いと思います。

 そしてもちろん、LGT銀行の責任も大きいと思います。

 以上、私は自分の裁判体験を踏まえて、検察と裁判所の懸念すべき行為をいくつも指摘しました。これらの内容は、私が7年以上の歳月を費やして解明したものです。

 これらの行為で特に危惧すべきことは、法律に反した判例が出来上がったことです。

 法律は判例の蓄積です。私たちが遭遇した検察の暴走とそれを看過した裁判所の姿勢が、判例になります。未来の被告人も、その判例に呪われます。

 日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の案件は、私のケースに酷似しています。とりわけ、勾留期間を延ばすために再逮捕や再々逮捕が利用されたことが気になります。もちろん、特捜部の担当は同一人物の森本宏氏です。さらに、これに司法取引が加われば、検察に勝つことなど誰もできなくなります。

 日本の司法制度では、裁判所が検察の暴走を看過して、被告人の人権を踏みにじっています。

 報道に携わる方々に、お願いします。この歪んだ制度の是正に向けて、その実体を正確に報道していただきたい。切にそう願います。

「オリンパス事件」仕立て上げられた「指南役」の収監直前「独占告発」(上)

「オリンパス事件」仕立て上げられた「指南役」の収監直前「独占告発」(中)

【事件の概要に関する資料】(横尾氏提供)

オリンパス事件の解説

朝日監査法人の不正

LGT銀行の不正

訴因変更に関する木谷明弁護士の意見書

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Foresight 2019年8月14日掲載

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