仲間由紀恵・谷原章介夫婦の溝にどれだけの深みとリアリティがあるのか賭けてみる「偽装不倫」

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 その昔、韓国へ旅行に行き、東大門の屋台でナンパした。185センチくらいの高身長に羽賀研二似の濃くて甘い顔、白く輝く歯、引き締まった体に長い脚。紳士的な振る舞いに痺(しび)れた。確かプロテニスプレイヤーと言っていたが、たぶん嘘だ。言葉は一切通じなかったが、やることはやった。翌朝、私が滞在するホテルまで送ってくれて、爽やかに別れた。アバンチュール最高! 日本の男にゃ到底無理! と思った。そんな昔話を思い出しつつ、かなり期待していたのが「偽装不倫」だ。

 始まってびっくり。ヒロインが恋に落ちる相手が韓国人ではなく、日本人になっていた。わあぁ、そこ、肝の設定なのに変えちゃうのか! 日テレが作る東村アキコ原作のドラマは、どうしてこうも肝心要のところを変えちゃうのかな。珠玉の名作をゆるふわ設定に変えてしまった「東京タラレバ娘」といい、これといい、女の魂を削ぎまくり。

 独身でモテない妹が「既婚者」と嘘をついて、年下の男性と不倫する一方、結婚している美人バリキャリ姉は「独身」と偽って、若いプロボクサーと不倫する。それが偽装不倫。姉妹の対比が面白いし、杏と仲間由紀恵という「浮足立たない、よく言えば堅実、悪く言えば地味な女優」が演じると聞いて期待していたのに。

 杏も久しぶりの主演なのに気の毒だ。過剰に滑稽を演出するドタバタリアクション、長尺な一人語りの外連味(けれんみ)のせいで、「鐘子(しょうこ)」という人物が薄ら馬鹿に見える。姉の不倫隠蔽工作に加担させられる根拠も弱い。

 杏が嘘をつき続けるのは自己評価が低いからという。「私みたいな何の魅力もない女は嘘というアクセサリーで自分を飾って、罪悪感を媚薬代わりにしないと、素敵な人に好きになってもらえない」と巧妙に自虐を見せる。2度もやっておきながら、まだ自分を主語に考えられないのか。別れる決意をしても、速攻会いに行っちゃうし。杏が偽装を続ける理由がようわからん。

 しかも相手は韓国人ではなく、スペイン帰りのカメラマンっつう微妙な設定の宮沢氷魚(ひお)。イケメンというか草原で草食(は)む系だよね。バイリンガルを活かせる役ならまだしも、氷魚もなんだか薄ら馬鹿に見える。主軸の2人から知性を奪うというのは、日テレがこのドラマの視聴者層をどう捉えているのか、透けて見える。

 でも、もうひとつの偽装がある。姉の仲間は結婚していることを隠して、23歳のボクサー・瀬戸利樹と懇ろだ。ピンク頭は不倫向きじゃないと思うが、瀬戸は不倫とは思っていないわけで。仲間の夫がマスオさん状態の谷原章介。2世帯住宅という地獄、常に妻の家族に気を遣い、笑顔で茶を淹(い)れる。しかも、妻の怪しい言動に気づいてもいる。こっちの偽装不倫にはなにやら奥行きがありそうだ。

 杏と氷魚のほうは、今後の展開もたぶん間違いなくイラつく自信がある。私の苦手な病気系ネタだし。仲間・谷原の夫婦の溝にどれだけの深みとリアリティがあるか、だな。理想的に見える夫婦の間に何があるのか、に賭けてみる。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年8月8日号掲載

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