黒木華「凪のお暇」が絶賛される理由 悩み多き現代人の心を突く“哲学的ドラマ”

芸能2019年8月2日掲載

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出演陣も光る

 凪は28年の人生が間違っていたと考え、すべてを捨てることを決意する。恋からも仕事からもお暇(離れる)する。リセットである。

 失踪する形で東京都下のボロアパートへ引っ越す。慎二には何も告げず別れ、会社は付箋に「辞めます」と書き残すだけで退職した。家財道具は布団と自転車以外、全部処分した。そして新生活が始まる――。

 第2話で凪はハローワークに出向き、失業保険の手続きをした。トレンディードラマの主人公たちは20歳そこそこで高級マンションに住み、遊び歩いてばかりいたのだから、隔世の感だ。主人公が失業保険をもらおうとするドラマは記憶を辿る限り、過去にない。

 また、大半のドラマは見て楽しむだけのものだが、「凪のお暇」の特徴は考えさせられるところ。「空気を読むこと」と「同調圧力」のほか、「職場内での女性同士の付き合い方」「男女関係のあり方」などである。コミカルタッチのドラマだが、哲学的なのだ。

 子供同士の経済格差問題を考えさせられるシーンもあった。第2話で凪のアパートの隣人である小学生・白石うらら(白鳥玉季)が、下校時に見知らぬマンション前で友人たちと別れたのだ。うららはボロアパート暮らしを友人に知られるのが恥ずかしかったのである。

 それを凪が目撃。うららはバツが悪そうな顔をしたが、凪はやさしく彼女を包み込む。こういうデリケートなエピソードをさらりと盛り込めるドラマは珍しい。生きるのが辛いのは大人だけじゃない。

 出演陣もいい。若手女優のトップランナーの1人である黒木は、凪の葛藤や迷いなどの心象風景を細やかに表現している。演出も目を引く。凪の心が大きく揺れ動くとき、それを水中にいる彼女の動きで表す。斬新だ。

 子役のころから名優だった慎二役の高橋一生もハマリ役。高橋は内面の陰鬱さを隠しながら笑うといった複雑な演技ができる。だから本当は虚勢を張って生きている慎二も好演できているのだろう。

 慎二は凪をあきらめられないので、引っ越し先のアパートを探し出し、訪ねる。でも、会うと素直になれず、居丈高になってしまう。格好をつける。

 アパートの隣人たちと親しくなった凪が、トランプに興じはじめると、頼まれてもいないのに自分も加わる。自分が邪魔者だと察すると「苦手なんすよね。アットホームごっこ。ヘドが出ます」と吐き捨て、その場をあとにする。幼児性が強い人物なのだ。

 その後、凪が部屋から出てくるのをアパート前で待っていた慎二は、凪に「好きなんだろ、俺のこと」と言いながらキスを迫る。もちろん凪は「バカにしないでよ!」と激怒。慎二は号泣しながら帰宅の途につくのだった……。

 「そりゃ怒るよ」という突っ込みを全国の視聴者が入れたことだろう。

 高橋自身は記者発表で「慎二には暗い部分がある」と説明している。やがて慎二もありのままの自分で生きられる日が来るのか?

 中村倫也の役柄は凪のアパートの隣人・安良城ゴン。イベントオーガナイザー(イベントの主催者、計画者)をやっているそうで、腕には目立つタトゥーが入っている。

 自由人で他人との距離感ゼロ。凪にも瞬く間に接近し、いきなりハグしたり、芝生の上で覆い被さったり。ただし、凪は不思議と不快ではない。

 このドラマは凪以外の登場人物も全員リアルだ。小学生から老女まで出ていて、いずれも大切な役割を担っている。

 老女とはアパートに1人で住んでいる吉永緑だ。三田佳子(77)が演じている。緑は人生の達人らしく、凪たちに金言を与え続ける。

 三田は故・杉村春子さんや故・山田五十鈴さん、故・森光子さんらと同様、死ぬまで女優を続ける覚悟を決めたのだろう。近年はこういう人がいなかった。ドラマや映画のファンには頼もしく感じられるに違いない。

 初回の視聴率は10・3%で第2話は9・5%(ともにビデオリサーチ調べ、関東地区)。作品の質が高い割には数字が低い気がするが、初回見逃し配信の再生数は約200万回で、TBSドラマの過去最高を記録した。

 コナリミサトさんによる原作の同名漫画(秋田書店)の売り上げも急伸中。凪ファンは確実に増えている。

高堀冬彦(ライター、エディター)
1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長。2019年4月退社。独立。

週刊新潮WEB取材班編集

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