ロシア「竹島上空侵犯」の狙い 韓国は日韓関係悪化でロシアに付け入る隙を与えている

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中露連携の可能性

 今回の事案の特徴は、ロシアが中国軍と連携していた可能性が高いということだ。竹島での領空侵犯と同時期に、ロシアTU-95爆撃機2機に加えて、巡航ミサイルを搭載可能な中国のH-6爆撃機2機が日本海と東シナ海を飛行し、日本の防空識別圏に入ったのだ。中露は共同訓練を行っていた可能性が高いとみられる。

 空における機体のスピードは陸海に比べると圧倒的に速く、領空に侵入を許してから警戒を始めていては、気付いた頃には領土に達してしまうおそれがある。そこで領空の外側を含めて設定されるのが防空識別圏だ。ただし竹島上空には防空識別圏が設定されていないので、ロシアによる今回の領空侵犯への対応は後手に回らざるをえなかった。

 防空識別圏の線引きが見直された先例もある。平成22(2010)年6月、日本最西端である与那国島の西部が加えられたのだ。これは防衛省訓令によって実施されている。防衛省訓令とは、日本の法形式においては、法律、政令よりもさらに下に位置付けられるものであり、防衛大臣の判断によって発することができる。閣議決定による政令改正を経て運用が見直される予定である輸出管理よりも、手続きはさらに簡便なのだ。竹島地元の島根県及び隠岐の島町の声にも耳を傾けながら、竹島空域への防空識別圏設定を真剣に検討すべき時が来ているのではないだろうか。

関係悪化を見逃さないロシア

 スクランブルの対象の第2位はロシアだと先ほど書いたが、堂々の(?)第1位は中国で全体の約三分の二だ。日本の空を脅かす中国とロシアが、今回の件で気脈を通じていたとなれば、不気味なことこの上ない。7月24日に中国が公表したばかりの国防白書でも、ロシアとの軍事協力強化が謳われている。なお中国単独でも、小型無人機(ドローン)を用いての尖閣空域での領空侵犯など活発さを増しており、警戒を怠ってはならない。

 このように中露の軍事的攻勢が強まる中で、韓国は自らの行く先を見失っている。冒頭で述べた通り、日本の領空たる竹島空域での領空侵犯は、一義的には我が国への挑発ということになる。だがロシアの矛先は、竹島を不法占拠する韓国にも向けられているということだ。足元のぐらつきを即座にそして巧みに突くロシアの特徴が出た格好だ。日本に対しても平成22(2010)年11月、メドヴェージェフ大統領がロシアの国家元首として北方領土に初めて上陸し、民主党政権による外交「崩壊」を見逃さない狡猾さを見せつけた。

 ロシアが見咎めた韓国の隙とは、もちろん対日関係の揺らぎだ。昨年来、自衛隊機に対する韓国海軍のレーダー照射、旧朝鮮半島出身労働者に関する大法院判決と墓穴を掘り続けて対日関係を自ら毀損したことによるマイナスが、対露関係にも及んでいることがまざまざと見せ付けられた。G20大阪サミットの際の露韓首脳会談には、プーチン大統領はなんと2時間近くも遅れて現れた。遅刻魔のプーチンとはいえ、2時間近くもの遅刻は、韓国への侮りがあるゆえだろう。対日関係の動揺によって、韓国が窮地に追い込まれるのは経済だけではない。

村上政俊(むらかみ・まさとし)
同志社大学ロースクール嘱託講師。1983年大阪市生まれ。東京大学法学部卒。外務省に入り、国際情報統括官組織、在中国、在英国大使館外交官補等を経て、2012年から14年まで衆議院議員。皇學館大学でも講師を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月29日掲載

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