国民の多くが高すぎると思っている「NHK受信料」を大幅に下げる方法

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 2020年10月までにNHKの受信料が下がる。生活者には朗報に違いない。とはいえ、値下げ幅は4・5%。地上契約は35円(今年10月の消費増税分の24円は据え置かれるので実質的には計59円)、衛星契約は60円(同42円と合わせ計102円)に過ぎない。「もっと下がらないのか」と嘆く向きは少なくないだろう。実際、下げられるはずなのである。

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「NHKは民放になるべき」

 こう真顔で語ったのはフリーアナウンサーの久米宏氏(75)。7月19日、NHK「あさイチ」に生出演した際のことだった。

 NHKと民放の最大の違いは受信料の有無。NHKは放送法第64条第1項があるため、さほど苦労せずに金を集められる。同法の定めにより、放送を受信することのできる設備を設置していたら、NHKと受信契約をしなければならないからだ。

 放送法には値下げについての記述はないが、どうやらNHKは嫌いらしい。過去の値下げは2012年の一度きり。それも最大120円に留まった。今回も地上契約は計59円で、衛星契約は計102円に過ぎない。

 受信料が地上契約は基本的に月1310円、衛星契約は同月2280円であることを考えると、あまりに値下げ幅が小さい。

 もっと下げられるはずなのだ。過去には政府から2割の大幅値下げが可能だとして、それを提案されたのだから。

 菅義偉官房長官(70)が総務相だった2007年、NHKに受信料値下げを求める意見案がつくられた。その値下げ幅が2割だったのだ。値下げする代わりに、受信料の支払いを義務化し、NHKの受信料収入は下げないようにするという計画だった。

「当時のNHK首脳は、約7割にとどまっていた受信料支払率を上げられると考え、支払いの義務化には積極的だったものの、値下げには及び腰だった」(全国紙放送担当記者)

 当時の総務省の試算では、2012年度までに支払率を85%に上げ、さらにNHKが250億円の経費を削減すれば、19・0%の値下げが可能だったという。2割値下げは現実味のある話だったのだ。

 ところが、NHKが値下げに消極的だったので、この計画は幻に終わってしまう。やはり値下げは嫌いらしい。

 それから約12年が過ぎた。今のNHKなら、再び大幅値下げが可能である。支払いの義務化は実現していないが、受信料徴収率が伸び続けているからだ。

「追い風となったのは2017年12月の最高裁判決。『受信料徴収は合憲』との判断が下された後、NHKに民事訴訟を起こされること嫌がった人たちなどが相次いで受信契約を結んだ」(同・全国紙放送記者)

 2018年度の受信料支払率は前年度より1・8ポイントも増えて81・2%に。過去最高の支払率だった。菅総務相時代に総務省が試算に使った支払率85%に近づいたのだから、大幅値引きも十分可能に違いないのだ。

 支払率が上がっただけではない。業績もいい。NHKが今年5月に発表した2018年度決算(単体、速報値)によると、一般企業の売上高にあたる事業収入(受信料収入を含む)は7332億円。また、事業収入から事業支出の差し引き額で、企業の純利益に相当する事業収支差金も271億円にも達している。

 余剰金も潤沢だ。その累計金額は2016年度決算の時点で957億円。パナソニックの2020年3月期の営業利益が約900億円なのだから、並みの金額ではないことがお分かりいただけるだろう。

「それでも大幅な値下げが実現しないのは、無駄があるからにほかならない」(同・全国紙放送担当記者)

 民放関係者や放送担当記者が口をそろえるのは、第一にチャンネルの多さである。

「2018年12月から4K放送と8K放送が始まり、総合、教育、BS1、BSプレミアムと合わせると、テレビ放送は6チャンネルに拡大した。ラジオはAMが2波、FMが1波。いくら何でも多い。1放送局が持つチャンネル数ではない」(民放社員)

 4Kと8Kの視聴者はまだ少ない。それなのに2018年度には制作費に約141億円も注ぎ込んだという。4K放送、8K放送は民間でもやっているのだから、ある程度は任せてしまってもいいはず。いくらなんでも受信料を気前よく使い過ぎているのではないか。

 また、民放が大反対する中、実施が決まったテレビ番組のインターネット常時同時配信が2019年度中に始まる。年間運営費は約50億円もかかると見積もられている。はたして受信料を払っている視聴者が望んだことなのだろうか。

 NHKにはアナログハイビジョンという苦い過去もある。莫大な研究費を使い、その開発には成功したものの、世界の流れがデジタルハイビジョンに向かってしまい、普及の道を絶たれたのだ。研究費は露と消えた。これでは「民間企業とは違い、コスト意識があまりにも希薄な組織」(前出・全国紙放送担当記者)と言われても仕方がないだろう。

 約1万人いる職員の人件費が高すぎるのではないだろうか。

「人件費に限ると、問題があるとまでは言い難い。これまでに何度か給与改定があり、これ以上下げてしまうと人材の質が落ちてしまう。40歳で年収1000万円強で、民放と比べたら3割は安い。また、2015年からは異動のない地域職員制度を採用しており、彼らは年収が2、3割安い。人件費は抑制されていると言えるだろう」(同・全国紙放送担当記者)

 それより大きな問題があるという。

「もはやネットを使った高校や大学もある時代なのに、教育チャンネル(Eテレ)の規模を縮小しないのはおかしい。それどころか、深夜1時、2時まで放送するようになり、肥大化した。総合の番組と見分けが付かないバラエティー調の番組、情報番組が少なくないのも問題」(同・全国放送担当記者)

 Eテレは教育・教養番組の放送に特化しているはずなのだが、事実、どうしてEテレでやる必要があるのかと首を捻る番組がある。

 たとえば、お笑いタレントがビジネスマンに処世術を説く「芸人先生」である。スピードワゴンが悪いわけではないが、こういった番組をやるために地上波を2波も持っているわけではないだろう。

 ちなみにEテレの各番組の視聴率は「視力測定(1・0前後が基準で2・0以上はまずない)」と称される。見ている人はほんの僅かなのだ。教育・教養番組ならそれでもいいだろうが、バラエティー調の番組では受信料を支払っている視聴者が納得しないのではないか。

 Eテレを本来あるべき旧来の形に戻し、教育・教養番組しかやらず、もちろん深夜放送もやめたら、制作費、人件費、技術費等が大幅に削減できるに違いない。

 いっそEテレのチャンネルを返上し、電波料や制作費、人件費の大幅削減を図るという選択もある。4K、8K放送と増やすばかりだったのだから、減らして組織の膨張を抑制してもいいはずだ。チャンネルのリストラである。

 純粋な教育・教養番組や甲子園野球中継は、総合をマルチチャンネル化し、放送すればいい。1チャンネルで2つの番組を同時に流すのである。技術的には難しくない。既に東京ローカル局のTOKYO MX(東京メトロポリタンテレビジョン)がそうしているのだから。

 年金暮らし世帯、生活の苦しい世帯からも半ば強制的に受信料を徴収しているのだから、そろそろ組織膨張は自制すべきではないか。なにより、電波を持ちたがる体質、一度持った電波を手離せない習性を根底からあらためるべきだろう。

鈴木文彦/ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月26日掲載

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