石原さとみは「連ドラヒロイン当番制女優」の中で最も文句を垂れ流すのが似合っている

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 梅雨寒の日々が続く。冷夏なのかな。心なしかドラマ界も寒々しい。イケメンもの、ゲイものにやや食傷気味なので、そろそろ気持ちのいいヒロインものが欲しいところ。今夏は女優が奮闘する作品が多いのだが、どうにもこうにもピンとこない。魅力的なヒロインがまだ出てこない。

 まあ、民放キー局では、ほぼ同じ女優を順繰りに主演に当て込んでいるだけだし。吉高由里子、石原さとみ、綾瀬はるか、新垣結衣、深田恭子、波瑠の当番制。しかもヒロインはパターン化。(1)ゆるふわ馬鹿、(2)傍若無人の鼻つまみ者、(3)偏屈な天才、(4)リアリティのない非モテ女子。当番制でパターン化って、なんの嫌がらせかしら? 女優の評価が「カワイイ」「きれい」だけの外見だけの話題で終わり、本当に気の毒である。NHK大河「いだてん」の菅原小春がめちゃくちゃよかったので、民放ドラマのヒロインの浅さには思わず白目を剥いちゃうよね。

 さて7月期、最初に取り上げるのは石原さとみ。ヒロインパターンで言えば(2)。「Heaven?~ご苦楽レストラン~」(TBS)だ。墓場の奥、葬儀場の隣の物件をフレンチレストランにする野望を抱くオーナーの石原。適当な人材を集めたものの基本は人任せ。思いつきの言動で人を振り回しておきながら、細かいことは気にせず無頓着。よくあるヒロインでもある。

 原作は佐々木倫子の漫画だ。知的でシャープ、独特の味わいがあって面白いのだが、ドラマにするとなぜこんなに鈍くさくなってしまうのか。割と原作に忠実に作ってはいるようだが、ところどころに入る笑いの演出がじじくさい。じじくさいことを若い志尊淳がやらされていて、気の毒な罰ゲームのようになっとる。

 岸部一徳・段田安則・勝村政信は言うてみれば「ドクターX」チーム。コメディ作品の中できっちり役割を果たす人々なのだが、品が良すぎて不甲斐ない印象。でも、これは不甲斐なくて、正解なのか。ドタバタコメディではなく、不甲斐レスコメディでいいのか。

 不甲斐ないポンコツだらけの中、妙な使命感を抱くのは、棒読みが魅力の福士蒼汰。唯一、フレンチレストランに勤め、接客の基礎を学んだ経験者だ。ひとり背負わされ、生真面目に立ち回る。そんな福士に妙に懐くのが元美容師の志尊だ。ペットか。きみはペットか。

 あれ、書いているうちにちょっと楽しくなってきたぞ。よし、この勢いで石原の長所も見出してみる。当番制女優の中で、最も文句を垂れ流すのが似合う。似合うというか、リアリティがある。性格に問題のある発言が板についているのだ。

 初回、飲食店に対する文句を吐き出すシーンがあったのだが、このときの石原は輝いていた。高飛車、傍若無人、唯我独尊。石原の豊かな表情から滲み出る底意地の悪さは、他の当番制女優には真似できない。追随を許さない意地悪さ。今期、他のヒロインがぼやっとしとるから、石原の意地悪さも際立つ。悪目立ちで終わらない、何か他の魅力でも私の心を震わせて。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年7月25日号掲載

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