専属フォトグラファーが捉えた台湾「蔡英文総統」の「10年」

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 台湾総統である蔡英文氏を、専属フォトグラファーとして長年にわたって撮り続けた写真を展示するという異例の個展「写真―記録―劇場」が、8月1日から東京・代官山で開かれる。主催者は台湾総統府首席撮影官を務めている林育良(41=リン・ユーリャン)さん。林さんは個展の許可を得るとき、被写体となった蔡氏本人から、「台湾のことを日本のみなさんにアピールしてください」というアドバイスを受けたという。

 民進党の蔡氏は2016年から総統を務めており、再選を目指して出馬する来年1月の総統選で、国民党の候補に決まった韓国瑜・高雄市長らとの対決を控えている。秋からは選挙戦が本格化することになる。

政治家として成長していく様子を観察

 林さんはフリーでの活動のかたわら、台湾高速鉄道(台湾新幹線)の撮影などを手がけてきたが、バラク・オバマ前米大統領の専属フォトグラファーとして話題を集めたピート・ソウザ氏の仕事に刺激を受け、友人を通して野党時代の民進党に対し、当時主席だった蔡氏の専属フォトグラファーになりたいと持ちかけ、採用されたというユニークな経緯の持ち主だ。

 蔡氏が2012年の総統選に落選したあとも専属の仕事を続け、2016年に総統に就任したあとは、総統府に雇用される形で、3人いる総統担当のフォトグラファーのチーフとして各地に同行しながら撮影を続けている。

 展示に用意した写真は専属となって撮りためたおよそ40枚。そのほぼすべてが蔡氏に関する写真だが、ポートレイトのように対象となる人物を大写しに撮ったものばかりではなく、海外訪問や国内行事、訪問客との対話など、さまざまな場面で仕事をしている蔡氏を通して、政治の舞台で繰り広げられる「劇」を、参観者が脚本を見ているような感覚で鑑賞できる仕組みにしてあるという。

 林さんによれば、蔡氏はもともと写真に撮られることに慣れていたほうではなく、カメラを向けると表情が硬くなったり、嫌がったりすることも多かった。2012年の落選後、台湾の各地方に足を運んで支持者を訪問する機会が増えるにしたがって、次第に政治家として撮影されることに慣れていったという。林さんは撮影対象としての蔡氏をこう見ている。

「総統が政治家としてゆっくりと環境に適応し、成長していく様子を観察してきました。それでも本質的に総統は撮影に対しては決して好きなほうだとは言えないので、日本語的な表現で言いますと、場面ごとに空気を読むことがフォトグラファーとして求められるような撮影対象です」

 個展は11日まで。無料。3日は林さんも参加するトークイベントが行われる。開催場所は、東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1階ヒルサイドフォーラム。http://hillsideterrace.com/events/7956/

 

野嶋剛
1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、「台湾とは何か」(ちくま新書)。訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。最新刊は「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com。

Foresight 2019年7月18日掲載

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