第2部は筋肉馬鹿と理系男子のイケメン満載ミステリーへ?「あなたの番です」

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 引く手数多(あまた)の人気俳優を拘束して、2クールぶち抜きの暴挙。さすが日テレ。強気だし、力があるんだなと思う。そういえば、日テレは昨年朝ドラにも挑戦した。バカリズム脚本の「生田家の朝」だ。朝ドラという概念をNHKだけにがっつり独占されて悔しくないのかと思っていたので、感心した。ドラマ自体はまあ、その、あれだったけど、「他がやらないこと」に常に挑む姿勢があるのは素晴らしい。2年前から昼ドラを始めたテレ朝しかり。大事なのは、動く・変わる・そしてくじけないこと。たとえ低視聴率でも、話題にならなくても。あ、今回は「あなたの番です」の話です。

 冒頭で枠の仕掛けの話を書くということは、あまりドラマ自体の中身に興味を持っていないことがバレちゃうのだが、それなりに観てます。第1部が終了、特別編を挟んで第2部が始まった段階で書いておこうと。

 マンション内の住人同士で交換殺人事件が起こるサスペンスというかミステリー。謎解き・犯人捜しが好きな人には垂涎。そこに重きを置かない私としては、役者陣の仕事ぶりに着目。

 まずは田中圭。第1部はなんというか、田中圭のプロモーションビデオに最適。爽やかで素直な筋肉馬鹿、風呂も入るし、筋トレもするし、年上の彼女(パッツンおかっぱに自我が溢れる原田知世)にセックスを求めてイチャつくし。特別編ではふたりの交際の経緯まで描いた。女性向けAVのようなプロセス重視の構造。が、そこはほら、2クールぶち抜きで拉致されている意味があるワケで。第2部では復讐に燃えるという異なる顔の「見せ場」がある。さらに、飛ぶ鳥を落とす勢いの横浜流星も投入し、筋肉馬鹿と理系男子の好相性バディ、イケメン満載ミステリーへと昇華する算段だ。

 で、マンションの住民。融通の利かない真面目さで、生きづらそうな生瀬勝久が、途中から演劇に目覚めたという謎の設定がなんだか可笑(おか)しい。自分探しを始めたおじさんに幸あれ。いや、キーパーソンになるのかな。

 実は、最上階に住んでいた大方斐紗子(おおかたひさこ)一家が最も私の心を奪った。もともとの地主で最上階居住も納得だし、大方は長男(徳井優)の妻・峯村リエにひどく辛く当たる。介護してもらっているのに罵声を浴びせ、悪態をついて、モラハラしまくり。人前では「嫁の不手際を寛大に許す姑」と思わせるための巧妙な芝居を打つ(なんて婆さんだ!)。峯村は耐えるも、途中で壊れてしまう。が、徳井と峯村は惨殺され、おそらくその現場を見たであろう大方は、気が触れたという悲惨な結末。殺意の行方がこの一家だけ別ベクトルな気がして。そこだけに妙に反応する私もどうかと思うが。

 夫と不仲で、住人の子供に異様な執着を見せた片岡礼子は殺されてしまったし、阪田マサノブ・木村多江夫妻はなんだかポップなサイコパスキラーカップルに仕上がったし。犯人捜しよりも、登場人物の歪んだ価値観とか心の深淵を覗くほうが好み。つまり、住人のゴミを漁って収集しとる山田真歩と同じ気持ちなのかも。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年7月18日号掲載

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