丸山議員「戦争発言」は政府にも責任あり 長年、北方領土問題を軽視してきたツケ

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「軽い外交」

 さて、今回の事件が期せずして暴露したのは、北方領土問題というのは日露首脳会談の前後こそ政府が「重視して見せる」が、その実は極めて「軽視してきた懸案」であるということだ。2016年2月、沖縄北方領土担当大臣の島尻安伊子氏が「ハボ…なんだっけ」と「歯舞」の字も読めなかったことは記憶に新しい。領土問題が「その程度の扱い」であることは実は今に始まったことではない。歯舞諸島の水晶島など、領土が眼下に望める納沙布岬には閣僚こそ訪れることはあったが、歴代総理で現職中に北方領土を視察したのは、まだ冷戦時代の鈴木善幸氏が初めてだった。だが、これも「たまたま、岩手出身の鈴木氏の肉親が根室にいたから」と言われる。

 戦後、北海道の国会議員ですら、この問題を熱心に取り組んできた人は皆無に近い。冷戦時代はソ連への畏怖や諦観も強かった。苦労してもまず票に結びつかないマターでもあった。ソ連崩壊で冷戦構造が崩れ、日露も雪解けとなり「橋本vsエリチン会談」「森vsプーチン会談」などで返還への期待値は高まり日露交流も活発化した。しかしこれまで一部の首相や外相などは別として、国会議員レベルで熱心に北方領土問題に取り組んだ人物などいなかった。だからこそ、今なお、異能の外交官だった作家佐藤優を従えた鈴木宗男(現新党大地代表)の独断場になっている。

 一方、小泉政権下、官房副長官として北朝鮮拉致問題で活躍して人気を得た安倍晋三は総理にまでなったが、米国頼りのこちらはその後うまくゆかない。そこでプーチン大統領を「ウラジミール」とファーストネームで呼ぶような安っぽいパフォーマンスであたかも領土が日本に返還されるようにメディアに喧伝させ、参院選などでの勝利に結びつけようと画策した。しかし最近になってそんなまやかしも通じなくなってきた。それで今度は「自ら北朝鮮を訪問し」と公言、拉致問題に戻ろうかという印象である。

 今回の丸山議員による国際的不祥事は「外交の安倍」のこうした「軽い外交」がもたらしたものでしかない。6月末の大阪市でのG20でのプーチン会談で予想される「領土問題成果なし」については「丸山議員の発言が交渉の障害になった」とでも言いわけするつもりなのだろうか。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

2019年6月12日掲載

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