日本人K-POPアイドルが続々誕生する理由 全員日本人の「TWICE」も誕生?

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「韓国人抜き」ユニットで中国市場を攻略?

「NCT」の派生ユニットとして今年1月にデビューした「WayV」は、別名「WeiShen V」。漢字で「威神V」と書く。メンバーは中国、タイ、香港出身の「NCT」メンバーに、新たに「NCT」に加入したマカオとドイツの出身者を加えた7人。つまり「WayV」こと「威神V」に、韓国人は1人もいない。

 SMエンタはなぜ、韓国人抜きのユニットをデビューさせたのか。その背景とされるのが、中国の「限韓令」だ。

「限韓令」とは、中国における韓国製品などのボイコットを指す。理由は、2016年7月に米韓の間で合意された米軍のTHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)配備問題だ。朝鮮半島へのTHAAD配備に強く反発する中国は、韓国に対する報復として企業や製品の締め出し、団体旅行の制限などを続けてきた。

 そこで標的の1つとされているのが、K-POPを含む韓流コンテンツだ。韓国国際文化交流振興院によると、中国における韓国の「放送コンテンツ」の市場規模は、2016年の7817万9000ドルから2017年は6分の1近い1355万5000ドルにまで急減した。

 一部は限定的に緩和されたものの、韓流・K-POPへの「限韓令」はいまも厳しい。中国当局はボイコットを公式に認めていないが、韓国ドラマの放送やK-POPアイドルの公演などは制限されたままだ。

 ただし男性グループ「Wanna One」出身のライ・グァンリン(17)、同じく「GOT7」のジャクソン(25)など、台湾ないし香港出身のK-POPアイドルは、中国での活動を許されている。そうしたなかで作られた「威神V」は、「『限韓令』以後、韓国芸能人の活動が依然として難しい中国を攻略する方策」(『毎日経済新聞』2019年2月1日付)と理解されるわけだ。

メンバー全員が日本人の「TWICE」が誕生?

 SMエンタに限らずK-POP業界はこれまで、主な海外市場である中国、東南アジア、そして日本からもアイドルを選抜してきた。だがこれまで、日本人の存在感が小さかったのは否めない。

 それが冒頭で述べたような活況に至ったのも、やはり「限韓令」のおかげらしい。現地メディアの言葉を借りると、次の通りだ。「今年に入って、国内の大手芸能事務所が先を争って日本市場の攻略に乗り出している。『限韓令』で事業が不確実な中国に比べ、日本は国内より規模も大きく(略)逃がすことができない市場だ」(『嶺南日報』2017年6月26日付)、「中国での活動が中国人メンバーに限定されるようになったため、最近では日本など他国の練習生たちを活用する例が目に見えて増えている」(『オーマイニュース』2019年3月8日付)。こうした取り組みの甲斐もあってか、K-POP・韓流市場の黒字がようやく「限韓令」以前の水準に戻ったとの報道もあった。

 だがK-POP業界と日本の若者の関係は、単なる中国市場の穴埋めに終わらないようだ。

「TWICE」を世に送り出したのは、SMエンタと1、2を争う芸能事務所JYPエンターテインメント。同社も2018年、全員中国人の男性グループ「BOY STORY」をデビューさせた。これも「限韓令」対策と言われているが、同社のパク・ジニョン代表(47)はさらに飛躍して次のような構想を掲げている。韓国のコンテンツを世界へ輸出するのが第一段階。海外と韓国のアーティストをミックスするのが第二段階。そして人材育成からプロデュースまでを海外で行う第三段階を、これから追求していくという。

 この構想に基づいてパク代表は現在、ソニーミュージックと共同で女性グループ選抜プロジェクト「Nizi Project」を進行中だ。本人の言葉を借りて要約すれば、「メンバー全員が日本人の『TWICE』だと思えばいいでしょう」という。今年7月から日本8都市及びロサンゼルスとハワイでオーディションを開催、2020年にソニー・ミュージックレーベルズからメジャーデビューさせる計画だ。

 国内アーティストの海外進出を超えて、新しいプロデュースの輸出を目指すK-POP業界。日本の若者が韓国人プロデューサーの手で脚光を浴びる機会は、これからますます増えることになりそうだ。

高月靖/ノンフィクション・ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月4日掲載

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