トッププロ「総ボイコット」危機直面「全米オープン」底深き問題 風の向こう側(48)

国際Foresight 2019年6月3日掲載

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 タイガー・ウッズ(43)がメジャー15勝目、米ツアー通算81勝目を挙げ、世界中を沸かせた4月の「マスターズ」が終わるやいなや、翌5月には今季2つ目のメジャー「全米プロゴルフ選手権」をブルックス・ケプカ(29)が制し、見事な大会連覇を披露した。

 そして、今季3つ目のメジャーとなるのが、6月13日から16日の4日間、名門「ペブルビーチ・ゴルフリンクス」(カリフォルニア州)で開催される「全米オープン」だ。

 言うまでもなく、全米オープンはメジャー4大会の1つであり、そのタイトル獲得は世界中の選手たちの目標である。

 だが同時に、アメリカのナンバー1ゴルファーを選び出すためのナショナルオープンでもあるため、米国人選手たちにとっては、母国の特別な大会という意味もある。

 そのため、米国人選手たちはエントリーする際の自分の名前の表記を、たとえば通称の「ビル」ではなくオフィシャルな「ウィリアム」と書くなど細かいところまで気を遣い、勝利する日を誰もが夢見ている。

 しかし、そんな彼らが全米オープンをボイコットしようとまで考えているというショッキングな事実がわかり、米ゴルフ界が揺れている。

「アンフェアなコース」と批判続出

 昔から全米オープンのコース設定はメジャー4大会の中で最も難しいと言われてきた。

 スコアが伸びるマスターズは「Fun(楽しい)」、イーブンパーで回るのが精一杯の苦戦を強いられる全米オープンは「Work(労働任務)」とは、飛行機事故でこの世を去った往年の名ゴルファー、トニー・リーマが残した名言である。

 狭いフェアウェイ、深いラフ、硬く速いグリーン。究極の難度を誇る全米オープンの舞台は、人々から「モンスター」に例えられ、選手たちは苦痛に顔を歪めながら戦ってきた。

 しかし、近年は全米オープンのコースが「難しいコース」ではなく「アンプレアブルなコース」「アンフェアなコース」になりつつあるという批判の声が選手たちから上がり続け、年々強まっている感がある。

 そこで米国の『ゴルフダイジェスト』誌が、メジャー優勝者16人を含めた米ツアー選手やキャディ、関係者など57人を対象に調査したところ、驚きの事実がわかった。

「難しくてもフェアなコースなら、どんなに厳しい戦いになろうとも喜んで挑む。でも、プレー不可能なコース、グッドショットやグッドパットがまったく報われないアンフェアなコースに挑もうとは思わない」

 そんな声が多数上がったのだ。

「大会後に謝罪」という史上初の事態も

 全米オープンを主催するのは、USGA(全米ゴルフ協会)である。戦いの舞台のコース設定を行い、最難関のコースに仕立てるのもUSGAの仕事とされている。

 そのUSGAに対して、全米オープンの過去のチャンピオンを含めたトッププレーヤーたちが不信感や不満を抱き始めたのは「数年前から」であり、とりわけ近年はその感情に拍車がかかっている。

 2015年大会の開催コースとなった「チェンバーズ・ベイ・ゴルフコース」(ワシントン州)は、大会の舞台になるだけのインフラもコースデザインも芝も人材も、すべてが準備不足で「史上最悪だった」と、即座に不満が爆発した。

 2016年大会では、最終日の優勝争いの真っ只中でダスティン・ジョンソン(34)のボールが動いたという嫌疑が浮上したが、USGAは罰打を科すかどうかの判断をその場で下すことができず、ラウンド後まで持ち越すという史上初の珍事を引き起こした。

 曖昧な状態のままプレーを続けたジョンソンが、それでも見事に勝利したことはまさに不幸中の幸いだったが、USGAが大会後に謝罪するという史上初の驚きの事態に発展した。

 その直後から、「今後は全米オープンをボイコットしようと考えた」という選手が、ジョンソンやローリー・マキロイ(30)を含めた10~15人に上っていたそうだ。

「100%ひどいものだった」

 昨2018年大会では、「シネコックヒルズ・ゴルフクラブ」(ニューヨーク州)の干上がったグリーンに業を煮やしたフィル・ミケルソン(48)が、グリーン上でまだ転がっているボールをパターで打ち返すという前代未聞の珍事が起こった。

 動いているボールを意図的に打つなど「もってのほか」「暑さのせいでミケルソンご乱心」等々、ミケルソンを批判する声が方々から上がったことは言うまでもない。

 あからさまなルール違反行為ゆえ、批判が出たのは当然のこと。だが、ミケルソンのあの行為は「ご乱心」ではなく、USGAに対する抗議行動だったと当初から感じていた選手が少なくなかったことが、今回の調査で明らかになった。

 ミケルソン自身、USGAと全米オープンに対する不信感はずっと以前から感じていたそうで、昨年大会での「パット事件」は、「怒りとフラストレーションが心頭に発してしまった」と明かした上で、「でも恥ずべき行動。決して誇れる瞬間ではなかった。ごめんなさい」と謝罪していた。

 その前年の2017年大会は、長女アマンダの高校の卒業式と日程が重なったため、ミケルソンはそれを優先し、全米オープンを欠場していた。

 すでにメジャー5勝を挙げているミケルソンは、全米オープンを制すれば生涯グランドスラム達成である。これまで何度も優勝目前まで迫った彼にとって、全米オープン優勝は悲願のはず。だが、それをあえて欠場する道を選んだ理由は、長女の卒業式だけではなかったようだ。

「これまで僕は全米オープンに29回出た。でも、雨が降らない限り、大会のコース設定は100%ひどいものだった。雨が頼りだ。唯一、雨だけがコースをなんとかしてくれていた」

 これほど語気を強めながらミケルソンが全米オープンを公の場で批判したのは初めてだった。

ミケルソンの激しい不満

「全米オープンがメジャーじゃなければ、とっくにボイコットしていたんだけど……」

 それが正直な気持ちだと言っている選手もいる。高い賞金、高いポイントがかかるメジャーだから仕方なく出場してきたが、ボイコットしたいというのが本心なのだ、と。

 第119回となる今年の全米オープンは、カリフォルニア州モントレー半島の海沿いに広がる美しいペブルビーチが舞台だ。

 ペブルビーチで開かれた前回大会は2010年だった。ミケルソンは当時も激しい不満を抱えていたという。

「あのときは、ポアナ芝のグリーンがスポンジみたいに柔らかくなり、グリーン面にはスパイクマークやボールマーク、あらゆる穴や跡ができ、それなのにあの(高速)スピードに設定されていて、もはやパットするのは不可能だった」

 しかし今年は見事なコースに仕上がっているかもしれないではないか? そんな問いかけにも、ミケルソンの表情が緩むことはない。

「すべてはヒストリーのせいだ。僕が過ごしてきた30年、そして、その前の30年……」

 USGAの方針がずっと変わっていないし、今後も変わらないという意味なのだろう。

今年は「ラストチャンス」か

 今年から施行された新ゴルフルールを批判し、2月にSNS上でUSGAとバトルを繰り広げたジャスティン・トーマス(26)も、全米オープンに対する激しい批判を口にしている。

「USGAのコース設定にはフラストレーションが溜まる。米PGAツアーが1年中、素晴らしいコース設定をしているからこそ、(その対比で)USGAの酷さが露呈している。もはや全米オープンは僕らが望むものから乖離してしまっている。もう僕らにはどうしようもない感じだ」

 トーマスの語気も強まるばかりだ。

 全米オープンを2週間後に控えた先週末の「ザ・メモリアル・トーナメント」(5月30日~6月2日)を9位タイで終えたウッズも、全米オープンとUSGAに対する不満を口にした。

「USGAがティの位置を日々動かすコース設定はまったく理解できない」

 ウッズいわく、USGAが毎日のようにティの位置を動かすようになったのは2006年ごろからのこと。ウッズが足をひきずりながらプレーオフを制した2008年大会のときでさえ、「14番はグレートなパー4なのに、あのホールのティを思い切り前に出し、1オン可能にする必要性がなぜあったのか?」と首を捻った。

「全米オープンは、昔は耐え忍んでプレーするコースだったけど、今はトリッキーなコースに変わってしまっている。(2015年の)チェンバーズ・ベイはその典型だった」

 そんな中、これまで幾度か大会ボイコットの意向を示していたというマキロイは、やや大人の姿勢を見せ始めた。

「USGAにチャンスをあげるべきだ。それでダメだったら問題だけどね」

 今年の全米オープンは、今後の大会をボイコットするかどうかを決めるためのラストチャンス――そう語ったマキロイは、今年のペブルビーチにわずかな望みを託している。

 もちろんウッズも、不満を口にしたとは言え、メモリアル・トーナメントで得た「とてもいい手ごたえ」をひっさげ、メジャー16勝目を目指してペブルビーチに臨む心積もりではある。

 それでもなお「もう我慢できない」と言ってボイコットする選手が出ないとは限らない。だが、ボイコットという強硬手段を取る前に、選手とUSGAが腹を割った話し合いをするなど、まだまだ、できることはあるはずだ。

 プロゴルファーは自分自身の目標や夢に向かって邁進しているが、同時に彼らはファンや子供たちの憧れの存在であり、ジュニアゴルファーたちの目標でもある。そして全米オープンは100年以上の長きにわたり、大勢の人々の夢が寄せられてきた伝統あるビッグ大会である。

 改良改善のための意見を言い合うことはウエルカム。だが、プロゴルファーの不満だけで、大勢の人々の夢と財産を打ち砕くことだけは、なんとしても避けてほしい。

 USGAや全米オープンを批判するにしても、プロゴルファーはあくまでもプロゴルファーらしい言動を心がけてほしい。彼らにそう願いつつ、今年のペブルビーチが素晴らしいコース設定になることを願っている。

舩越園子
ゴルフジャーナリスト、2019年4月より武蔵丘短期大学客員教授。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。最新刊に『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)がある。