幼児虐待と少年犯罪の因果関係、「三鷹ストーカー殺人事件」の犯人が育った劣悪な環境

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 少年犯罪の「心の闇」に光をあて、虐待が少年たちの心を壊す、そのメカニズムを解明した『虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか』(平凡社新書)がこの5月に刊行された。著者は、川崎中1男子生徒殺害事件のルポで新境地を開いた石井光太氏(42)。

 リベンジポルノが社会問題視されるきっかけとなった、2013年10月8日三鷹ストーカー殺人事件。当時高校3年生でタレントだった被害女性が、元交際相手だった池永チャールズ・トーマスからストーカーされ、自身の性的画像や動画をネット上に流され、挙句に刃渡り13センチのペティナイフで首や腹を11か所刺されて殺されたという凄惨な事件である。

 石井氏が語る。

「池永は、言葉遣いが異常でした。時代劇がかった言い方で、『たっとんで申し上げまつります』『裁判所ですから、これは敬語ということなのでございます』。池永は公判中、大学ノートに一生懸命メモを取っていましたが、裁判官が、『君は、なにをやったのかわかっているのか?』と問うと、『心が理解できないのでございます』。本当に、事件のことを理解していないようでした」

 公判では反省の色を見せない池永は、傍から見れば“モンスター”“心の闇”という言葉でレッテルを張られてしまうが、

「“心の闇”と言ってしまうことは簡単ですが、一体どういうシステムになっているのか、どんな原因で人格が壊れてしまったのか、光をあてたいと思いました」

 まず、池永のケースを分析してみよう。

「彼は、物心ついた時から中学生まで、日常的に凄惨な虐待を受けています。フィリピン人の母親は、電気も水道、ガスも止まったアパートに池永を放置して食事をろくに与えなかった。それで、コンビニに行ってゴミを漁って食べた。風呂に入れないから、公園のトイレの水道で体を洗った。さらに、アパートに住みついた母親の恋人は、彼に残忍な暴力をふるっています。ライターの火で鼻の孔をあぶる、冬に水風呂に放り込んで沈める、鉄を火であぶって体に押し付ける、といった劣悪な環境の中で育ちました」

 2015年2月に起こった川崎中1男子生徒殺害事件も、3人の加害少年のうち2人は日常的に親の暴力を受けていた。

「多摩川の河川敷で、少年3人が中学1年の被害者(13)を呼び出し、カッターナイフで43回切りつけた末に殺害した事件ですが、主犯となった少年A(当時18)と少年B(当時17)は池永と同様、母親がフィリピン人、父親が日本人というハーフだった。Aの父親はトラックの運転手ですが、しつけは厳しく、言うことを聞かないと殴ったり蹴ったりした。6時間正座させることもあった。母親もハンガーで殴った。ハーフということで、『おい、フィリピン!』と学校でもいじめられ、居場所がなかった」

 少年Bは、もっと酷かった。

「シングルマザーの家庭でしたが、母親は家にほとんど帰らず食事も作らない。Bに家の鍵も渡さなかったから、家に入る時は玄関のポストから携帯電話のコードを使って鍵を開けたという。Bが学校で問題を起こすと、母親はフィリピンの実家やアメリカの親戚宅に何か月も置き去りにした。言葉がわからない異国の地に我が子を置き去りにするなんて、ありえないネグレクト(育児放棄)ですよね。栄養状態が悪いので背が低いし、服も汚れていて臭う、またハーフということで、Aと同様、学校でいじめられていました。もう一人の少年Cは精神鑑定で発達障害があると指摘されています」

 虐待の中で最も心身への影響が大きいのがこのネグレクトである。次が性的虐待、そして身体的虐待、心理的虐待の順になる。

 これら凄惨な虐待は、心身にいかなる影響をもたらすのか。

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