文在寅に「独裁者」質問の記者が大炎上 酷過ぎる個人攻撃で浮かび上がる韓国社会の闇

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過熱したネットの個人攻撃

「ソン記者の質問はほとんどが自由韓国党の立場で構成されていた」――。こうした批判もある一方で、ソン記者を支持する声も多い。当の文大統領も官邸幹部の話として、「不快に感じてはいない」「もっと攻撃的な応酬になっても問題なかった」といった反応を伝えている。「枝葉の質問が多くインタビューとしてつまらなかった」という指摘もあるものの、少なくとも政権に批判的な声を伝えただけで攻撃を受けるいわれはないだろう。

 だが放送終了の直後から、大統領官邸ウェブサイトの請願受付ページには「KBSは番組を見た国民に謝罪しろ」「KBSの受信料制度を廃止しろ」などの投稿が次々に登場。KBSウェブサイトでも、「ソン記者の公式謝罪を要求します」という請願が寄せられた。またフェイスブックでソン記者を擁護した2人のKBSアナウンサーは、集中砲火を浴びて謝罪に追い込まれている。それぞれ「緊張感があってよかったが、支持層の反応がひどい」「支持層が悪口を言うのは、内容がよかったということでしょう」などと書き込んだのがその理由だ。

 こうした「炎上」の常として、ソン記者の家族を巡る攻撃も過熱している。父親の素性や夫の勤務先などもネットで掘り返され、未確認情報とともに拡散された。またソン記者と従姉関係にあることが判明した男性アイドルグループINFINITEのメンバーSにも、「暴走」が飛び火。現在兵役中のSは昨年5月からインスタグラムを更新していないが、そのコメント欄にまで「いとこに真っ直ぐ生きろと言え」「いとこのせいでINFINITEが嫌いになった」「恥ずかしい」などの書き込みが殺到した。

 ソン記者を中傷する「フェイクニュース」も広まっている。大統領だった頃の朴槿恵が話している傍らで、熱心にメモを取る女性記者の映像がそれだ。「ソン記者は文大統領に突っかかったのに、朴槿恵の言葉は忠実に書き写している」という文脈で流布されたが、写真の人物は別人だと判明した。そのほかユーチューブには、対談番組そのものが「録画・編集されたヤラセ」という陰謀論まで登場している。

 KBSのソン記者が朴槿恵時代の与党=自由韓国党を代弁して文大統領を攻撃した――。こうした疑いが「炎上」を加速させた背景には、マスコミに対する根強い不信感もある。李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵と2代続いた保守政権下で、KBSをはじめとする主要メディアは、政権への「忖度」報道を繰り返した。とりわけ朴槿恵時代の国政介入事件やセウォル号沈没事故を巡る政権への同調は、まだ記憶に生々しい。そうした前歴があるだけに、KBSの対談から文大統領への敵意を嗅ぎつけた支持者が多かったわけだ。

 大統領とのオープンで率直な対話になるはずが、「炎上」ばかりが取り沙汰される結果になった特集対談。韓国社会が抱える根深い対立の構図が、騒動の背景に見え隠れしている。

高月靖/ノンフィクション・ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年5月27日掲載

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