日本映画はなぜ海外で上映されないのか 専門家が解説する“特殊事情の罪”

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忖度ばかりで世界に遅れる日本映画

 2018年度の日本の映画市場は約2225億円(邦画は1220億円)だが、アメリカは1兆円を超えており、中国も約9800億円といわれている。各国に比べて市場規模が小さい日本映画業界の製作委員会方式は、投資リスクを抑え、かつ安定的に作品を作るために発展してきた仕組みといえよう。

 だが、そのシステムには大きなデメリットがあると前田氏は語る。

「日本映画には長い歴史があり、黒澤明監督の映画をはじめ世界的にも評価が高い作品がある一方、多くの作品は海外で観られていません。その原因のひとつが製作委員会方式にあるとされています。なぜなら、製作委員会の複雑な権利関係のせいで、海外の映画会社が日本映画を買ったり、リメイクしたりするときに非常に苦労するからです。委員会内の各権利を持つ企業から許諾を取るのは非常に面倒ですからね」

 製作委員会は、映画の公開が終われば解散となり、その後、当時の担当者が他の部署に異動、退職してしまえば、判子ひとつもらうのも容易ではない。海外のバイヤーにとってはなおさら面倒な話だろう。

「これでは当然、海外からの買い付けや放映の申し出も少なくなってしまいます。ある意味で、製作委員会方式が非関税障壁(関税以外の理由での貿易障壁)のようになっている。これは日本映画界にとって大きな機会損失です」

 国際的な市場を視野に入れた映画作りができれば、おのずと作品の質は上がるだろう。しかし、その足を引っ張るのが製作委員会方式なのだ。

 デメリットは他にもある。

「強い芸能事務所などが委員会に参加していれば、忖度してそこの役者を使ったり、テレビ放映を考えてグロテスクな描写は排除するなどの判断を現場ではしてしまうようです。企業は直接的には口を出してこないので、あまり表沙汰にはならないことですが、そういった忖度のせいで映画の表現の自由度が下がるということは問題といえるでしょう」

 しかし、ここ近年、製作委員会至上主義の日本映画界に、一石を投じる存在が現れたのだ。ご存じNetflixである。

世界展開を見据えるアニメに倣え

 大手ネット配信サービスのNetflixは、コンテンツ予算1.4兆円のうち、85%をオリジナル映画やドラマに投資している。特に日本のアニメには積極的に投資中で、アニメ制作会社約50社と契約を結び、順次世界配信している。

 アニメ業界も、実写映画と同じく、いまだ製作委員会方式でほとんどの作品が作られているが、徐々にそのシステムから脱却しつつあるようだ。

「『BLAME!』という作品は、日本で初めてのNetflixオリジナルのSFアニメ映画です。これをもし国内向けに作っていたら、深夜30分枠で放送できれば御の字というレベルなため、当然予算も少なくクオリティーも下げざるを得なくなるでしょう。しかし、Netflixからの投資によって、劇場でも公開できうる3DのCG作品となりました。従来の製作委員会方式だけではまず生まれなかった作品です」

 アニメ業界はじわじわと旧来の製作委員会の呪縛から解き放たれているが、映画業界にもその波は来るのだろうか。

「ギャラはNetflixのほうが良いらしいですが、やはり“劇場映画を作っているほうが上”というヒエラルキーが、まだ日本の実写映像クリエイターの間には存在するようです。それに映画館やテレビ局は、劇場上映、DVD販売、テレビ放映という3度でおいしい既得権益の方程式が成り立たなくなりますから、Netflixに対して必死の抵抗を見せるでしょうね。そう考えると、実写映画について言えば、Netflixを阻む障壁はアニメより高いため、今後もそう簡単に製作委員会方式はなくならないでしょう」

 各企業の利権や思惑が複雑に絡み合い、共依存状態となっている製作委員会。その呪縛を断ち切る日は来るのだろうか。

取材・文/沼澤典史(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年5月17日掲載

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