SNSにはけ口と救いを求めたら地獄が待っている「向かいのバズる家族」

芸能週刊新潮 2019年5月2・9日号掲載

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 2年前、1度だけバズったことがある。といっても私ではない。私の姉が描いた年賀状が面白かったのでツイッターに載せたら、10万リツイートを超え、フォロワーが一気に3千人くらい増えた。編集者や友人からも、開口一番「バズってるね」と言われた。自分のつぶやきは閑古鳥だったから、嬉しいやら悲しいやら変な気持ちに。ちょっとした狂乱状態ではあったが、バズって人生が一変、なんてことはなかった。ただ、あの不特定多数の人がどんどこ向かってくる感じはある種の恐怖だと知った。そのざらっとした感触を思い出したのが、「向かいのバズる家族」である。

 主演は内田理央。家でも職場でも常に笑顔でいい子を演じているが、実はじくじくと不平不満をため込んでいる。そのはけ口として、お面を被り、ボイスチェンジを施し、世の中に対して罵詈雑言を吐く動画を投稿。微妙なラップ調で悪態をつく「ナマハゲチョップ」なるキャラは、彼女の分身だ。

 実際、裏アカウントや鍵アカウントを持つ人は多いそうだ。そこに本音や愚痴、悪口や憂さを吐き出したり、友人には言えない趣味や意見を自由に語ることで、精神の安定を保つのだとか。器用だなと感心する。

 内田の家族は、いわば仮面家族。写真好きの祖父(小野武彦)が来た時だけなぜか仲良し家族を演じる。この一家がSNSに翻弄されていくという物語のようだ。

 父はテレビドラマのプロデューサー(木下隆行)で、担当したドラマのSNSが絶賛炎上中。母(高岡早紀)は料理動画を投稿し始める。が、高岡のお色気目当てで視聴回数が増えたことから承認欲求に火が付き、露出がエスカレートしていく。

 ある日、内田は勤め先のカフェで客の男(森下能幸)から怒鳴られる。その様子を別の客(小松利昌)が撮影し、動画を投稿。これが一夜でバズり、状況は一変。謝罪する可愛い店長と評判になり、店は大繁盛。注目された内田は浮かれる一方で、ざらっとした得体のしれない恐怖も味わっていく。森下はこの動画のせいで、名前や職場などの個人情報を特定され、人生台無しに。

 大学生の弟(那智)は家族のSNSをすべて把握。ネガティブなコメントがあれば削除要求をして、家族を守ろうとしているようだ。

 おそらくこの一家がSNS上で晒されて、とんでもない目に遭うのねと予測できるし、劇中で謎のミュージカルシーンが挿入される突飛さもなんだかなと思う。思うのだが、一家が体験する恐怖の行く末が、どう描かれるのかが気になる。まさか匿名性の危うさと数の暴力を戒めて終わり、ではないだろうし、家族が向き合ってハッピーエンドなんてゆるい結末でもないはず。

 善人を演じてきたのに友達がいない内田のこれまでの人生も気になるし、ネット上では性格が激変する那智の心の闇も空恐ろしい。虚ろな偽善者家族をポップに仕上げたその先には、いったい何があるのだろうか。

 ちなみに、姉の年賀状ツイートは2年以上たった今でも時々「いいね」がつく。そのたびにざらっとする。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。