「パスタぎらい」のヤマザキマリが教える、イタリアの“穴場”美食エリア

ライフ 食・暮らし

  • ブックマーク

Advertisement

 前編では地域性豊かなイタリアの食とそれぞれの地域でおすすめの名産品や名物料理を紹介した、ヤマザキマリさん。後編では、知られざるイタリアの美食エリアを紹介。さらに、イタリアで食事をする際に気をつけるべきことについてご指南いただきました。

2度目、3度目のイタリアで行くべき地域

 ミラノについてはパスします(笑)。ミラノ風カツレツやミラノ風リゾット、「オッソブーコ」(仔牛の骨付きすね肉の煮込み)といった名物はありますが、個人的にはさほど感動に包まれるような味に出会ったことがありません。ただそれはあくまで個人的経験。ミラノはイタリア一の大都会なので、美味しい料理を提供する店がたくさんあるはずです。ネットにも情報や口コミがたくさんあると思うので、ぜひ自力で探索してみてください。

 さて、初めてイタリアに旅行する人の多くは、ミラノ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ローマといった都市を駆け足で回るのではないでしょうか。さらに時間的余裕がある人はナポリあたりまで足を運ぶ――それが一般的なコースでしょう。
 もちろんそれもいいのですが、イタリアにはまだまだその他にも“美食”で知られる地域があります。中でもおすすめなのが、ボローニャやパルマ、モデナといった街がある、中部のエミリア・ロマーニャ地方です。
 パルマは「プロシュート」と呼ばれる生ハムが有名で、日本では「パルメザン・チーズ」と呼ばれるチーズは、もともとこのエミリア・ロマーニャ地方ほか一部の地域で作られる「パルミジャーノ・レッジャーノ」というチーズをもとにしていて、「パルミジャーノ・レッジャーノ風のチーズ」という意味です。ボローニャは、日本でも「ボローニャ・ソーセージ」として知られる「モルタデッラ」と呼ばれるソーセージの発祥地で、私の大好物です。さらに「ミートソース・スパゲティ」の起源であるパスタ「ボロネーゼ」もある。

 穴場なのがモデナです。人口18万人ほどの中規模都市で、その郊外にフェラーリの本拠地があることで知られている町です。バルサミコ酢と、やや甘い発泡性の赤ワイン「ランブルスコ」が名産品です。
 モデナには、ミシュランの星付きレストランが数多く存在しています。中でも突出して有名なのが、「オステリア・フランチェスカーナ」というレストラン。現在イタリアで「最も予約の取れないレストラン」として知られ、世界中の美食家たちがこぞってその味を求めてやって来るようです。一時期そこのスー・シェフ(副料理長)は、日本人が務めていました。
 エミリア・ロマーニャ地方は、ミラノとフィレンツエのちょうど中間に位置する地域で、ほとんどの観光客は素通りしてしまいますが、もし2度目、3度目とイタリアに足を運ぶ機会があれば、ぜひ訪れて当地の美食を堪能してみてください。

こんな店には気をつけよう

 イタリアで食事をする際は、どんなことに気をつければよいか――個人的には、そんなマニュアルめいたものに頼らないで、「むしろどんどん失敗しよう! 失敗こそが良き経験となる」と思うタイプですが、それだと話が終わってしまうので、簡単にアドバイスしてみたいと思います。
 とはいえ、“秘訣”と呼べるほど大げさなものではありません。旅慣れた人ならば、みなさん心得ていることかもしれません。

 ひとつは、鉄道の駅周辺の店は避けること。場所柄、あたりさわりのない店が多いので、よほど時間がない時以外は避けた方がいいでしょう。もちろん、これはイタリアに限ったことではありません。ローマならば、テルミニ(ローマ中央)駅周辺は避けて、テヴェレ川の向こう側にある「トラステヴェレ」という地域が個人的にはおすすめです。ここには美味しいお店が多く集まっていて、値段もリーズナブルです。

 美味しいものをじっくり味わいたければ、観光名所が多く集まる街の中心からできるだけ離れるのがポイントです。中心から車で30分~1時間ぐらいのところにある、地元の人たちが行く店が狙い目。しかし中には、団体客目当ての大きなテーブルがいくつも並んでいるようなところもあるので、そういったタイプの店は避けた方が無難でしょう。
 各国語のメニューを揃えた店も便利ではありますが、できれば避けたい。本気でイタリア語しか通じない店も中にはあるので、そこは難しいところですが。けれど、「身振り手振りで店員さんとコミュニケーションしながらオーダーしたものが、想定したものとは違った……でも、それが美味しかった!」というような経験こそが、私は旅の醍醐味だと思います。それで失敗したとしても、そのことも含めて楽しめばいいのではないでしょうか。

 私がよくイタリアに旅行する人に聞かれるのは、「ひとりでお店に入った場合、前菜、パスタ、メイン、デザートと“フルコース”を頼まなければいけないのか?」ということです。レストランのグレードにもよりますが、超高級店でなければ、前菜とパスタだけとか、あるいはパスタを抜いてメインだけでも一向に構わないと思います。イタリア人だって、毎回フルコースを食べるわけではありません。
 それに「ひとり客」だからといって気兼ねすることはありません。確かにイタリアの平均的な家族は、あまり外食をしませんが、だからといって「ひとり飯」が珍奇に思われるわけでもありません。恐縮せず、堂々と振る舞ってください。

失敗こそが良い経験になる!

 ここまで「イタリア料理攻略法」と題して話をしてきましたが、結論としては、「失敗を恐れるな!」と言いたいですね。ちゃぶ台をひっくり返すようで恐縮ですが(笑)
 私もイタリアに限らず、世界中でたくさん失敗してきました。『パスタぎらい』という本にも書きましたが、チベットでヤクのバター茶を飲み過ぎて腹を壊したり、モスクワで小骨だらけの得体の知れない煮込みを食べさせられたり……。でも今思えば、「美味しいものを食べた!」という記憶よりも、「あれはとにかくマズかったな!」という記憶の方が強く残っています。

 失敗もまた旅の醍醐味でもあります。もちろん美味しいものにありつくことが最優先ですが、反対にマズいものを恐れすぎてもつまらない。世界には美味しいものがある分だけ、マズいものもあります(笑)
 もちろんレストランで法外な値段を要求されたり、身の安全を脅かされたりといった経験はしない方がいいに決まっています。けれど、「美味しい/マズい」レベルの失敗はむしろ進んで積んでおいた方が、精神的にはリッチになると思います。それに最終的には、自分が経験したことからしか、人は教訓を得ることもできませんし。ぜひぜひ「マズいもの」にも寛容になってください(笑) 

ヤマザキマリ
マンガ家。1967年4月20日生まれ。84年、17歳でイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院に入学。美術史・油絵を専攻。97年にマンガ家としてデビュー。2010年、古代ローマを舞台にした漫画『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2017年には、イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。マンガ作品に『プリニウス』(とり・みきと共著)『スティーブ・ジョブズ』『オリンピア・キュクロス』など。文筆作品では『男性論』『国境のない生き方』『とらわれない生き方』『ヴィオラ母さん』など。

デイリー新潮編集部

2019年4月26日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。