昭和の残滓がしつこく令和へと引き継がれてゆく「春の医療ドラマドジっ子祭り」

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 ドラマの初回でどうしようもなくベタな演出がひとつでもあると、視聴欲が萎える。友人は「フラッシュモブシーンが出てきたらもうダメ」と言っていた。私は「食パン咥(くわ)えたまま走る」「出会いがしらに偶然ぶつかる」「コケて抱きついてチュー」「痴漢と間違えて平手打ち」「初対面で大喧嘩、職場で会ってびっくり」「一夜限りで致した相手が新しい上司」など、列挙したらキリがない。その多くは昭和から引き継がれる悪しき伝統芸。平成も終わって間もなく令和になるというのに、昭和の残滓を感じさせる作品がふたつ、奇しくも医療モノで共通項もあるので、まとめちゃえ。名付けて「春のドジっ子祭り」。

 フジ月9「ラジエーションハウス」では、画像診断における天才的な読影能力と技術をもつ放射線技師を窪田正孝が演じる。医療モノだが医者じゃない。技師だから待遇もよろしくなさそうだし、病院内での立場も弱そうだ。医師と技師の格差問題にも斬りこむかなと思ったのだが。初回の些末な部分で、下顎が床につくほど呆れてしまった。窪田の幼馴染で初恋の人、放射線科医師を演じるのが本田翼。窪田はすっ転んで本田に抱きついたり、後ろから尻を掴んでしまう。本田は窪田を平手打ちして、「警察呼びますヨッ!!」だとさ。ドジやおっちょこちょい自体を責めているわけではない。その「いかにもベタ」なシーンが人物描写にあまり功を奏さないことに、現場で誰も気づかないという戦慄。若い人は「ありえなくね?」と思っていても、言えなかったのかな。

 もうひとつ。日テレ「白衣の戦士!」だ。ナースと言えば、観月ありさと松下由樹しか浮かんでこないが、きっと令和の時代にふさわしい新奇性のある看護師モノになるのだろう、と。

 主演は、手足がひょろ長くて顔は林檎大の中条あやみ。元ヤンキーはいいが、雑で騒々しいにもほどがある。初回からどんがらがっしゃん、やらかし放題。本当に日テレは昭和なドジっ娘が大好きだな(ドジっ娘のそばには安田顕を配置するよね)。しかもドジっ娘中条は熱血な側面もあり、病院からいなくなった患者を探して、繁華街をナース服で駆け回ったりもする。

 中条が繰り出す数々の暴挙に対し、エクスキューズも台詞や展開にいちいち込められているので、おそらく「アンチドジっ娘」な人も中にはいるのだろう。でも、このハイテンション熱血ドジっ娘を温かく見守るほど、私の心は広くない。

 ベタな部分は除いて、もう少し冷静に見渡してみる。月9は系列のカンテレドラマ御用達の実力派俳優をまるっとごっそり引き抜いた。フジ、阿漕(あこぎ)やな。この手練(てだ)れな面々の人物像と背景を描かずに、放射線科のスケールを表す装置だけにしやがったら承知しねーぞ、と。

 ドジっ娘のほうは待遇の不満や個人医院への転職率、男性看護師の鬱屈とか、看護師業界の厳しい現実も見せてくれたらなあと思う。

 医者モノには皆飽き飽き。だから今、技師や看護師を主役にした意義や矜持が当然あるはずだ。あるよね?

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年4月25日号掲載

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