民放は朝ドラ「なつぞら」より「おしん」に戦々恐々、BS再放送でSNSは大騒ぎ

エンタメ 2019年4月8日掲載

  • ブックマーク

民放は白旗をあげて降参?

 依然として「おしん」はモンスター級のテレビドラマであることを証明したわけだが、内容や人気の背景を改めて確認しておこう。

 半年の放送期間が多い朝ドラだが、「おしん」は「NHKテレビ放送開始30周年記念作品」と位置づけられ、1年間のオンエアだった。

 ドラマは3部構成。1901(明治34)年生まれという設定のヒロインを、少女期を小林綾子、成年期を田中裕子(63)、そして老年期を乙羽信子(1924〜1994)の3女優が演じた。山形県の“五反百姓”と呼ばれる貧しい農家。数え年で僅か7歳の少女が、米一俵と引き換えに年季奉公に出されるのが物語の発端だ。

 白米を食べる、小学校で学ぶ、字を書く――現代人には極めて当たり前のことが、明治の人々にはどれほど大変なことだったのかが丁寧に描かれていく。おしんはどんな困難にもくじけず、成長を目指して努力を重ねる。

「歴史の動乱期を生き抜く女性の物語」は朝ドラが最も得意とする題材だ。橋田壽賀子(93)の原作・脚本を絶賛する声も多いが、モデルが存在したこともドラマにリアリティを与えた。静岡県の女性が手記を綴り、それを橋田に送ったことが企画の原点だったという。

 放送が開始されたのは83年。当時、日本の首相は中曽根康弘(100)、アメリカの大統領はロナルド・レーガン(1911〜2004)だった。4月に東京ディズニーランドが開園し、7月に任天堂が「ファミリーコンピュータ」を発売。日本の社会構造は重工業を中心にした“重厚長大”から、情報産業やサービス業を中心とする“軽薄短小”へ移り変わろうとしていた。

 バブル景気の前夜にもあたるが、多くの国民は既に豊かさを実感していた。「一億総中流」が国民意識として定着する中、貧しかった日本の姿を再確認しようとする人々は多かったのかもしれない。

「おしん」は日本ドラマ史でも傑出した視聴率を残した。ビデオリサーチの視聴率調査(関東地区、以下同)を元に朝ドラの「最高視聴率」と「平均視聴率」を集計、ベスト5とワースト3を表にしてみた。ご覧いただきたい。

 最高も平均も共に「おしん」が1位。広範な人気から“社会現象”という文脈で語られることの多かった「積木くずし・親と子の200日戦争」(TBS系列:83年)、「日曜劇場・半沢直樹」(同:13年)、「家政婦のミタ」(日本テレビ:11年)の3本でさえ、最高視聴率を記録した最終回は、それぞれ45.4%、42.2%、40.0%である。

「おしん」は、それを20%近くも上回っている。アメリカのニュース誌「タイム」が「オシンドローム(おしん症候群)」と形容したほどの巨大ブームが日本に沸き起こる。

 田中角栄(1918〜1993)が涙ながらに「俺は男おしんだ」と語ったとされ、当時の中曽根首相もコメントに引用。昭和天皇も好んで視聴していたといい、「ああいう具合に国民が苦しんでいたとは、知らなかった」との感想を漏らしたという逸話も伝わっている。

 第1部の舞台となった山形県には観光客が詰めかけ、地元の食堂は“大根飯”をメニューに載せた。第2部は佐賀県を舞台に姑の厳しい「おしんいびり」が描かれたため、NHK佐賀放送局には「県のイメージダウンを何とかしろ」と抗議の電話が殺到。小林綾子や泉ピン子の元には多くの米が送られ、伊東四朗の自宅には「少し娘に厳しすぎる」と視聴者が押しかけてきたという。

 国内にとどまらず、海外でも高い人気を獲得したドラマとしても知られている。中国、台湾、シンガポール、イランなど、世界68の国や地域で放送。特にシンガポールとイランは視聴率が80%に達したとされる。またフィリピンやドイツなどでは全く人気がなかったという報道も残っている。それだけ失敗が珍しかったわけであり、「世界で最もヒットした日本のドラマ」と呼ばれることも多い。

 そもそも「なつぞら」の視聴率も高い。ビデオリサーチによると、4月3日の「なつぞら」は23.0%。ドラマ部門の1位であるのはもちろん、他に20%を超えた番組は1つもない。まさに「日本で最も視聴されているテレビ番組」なのだ。

 そんな「なつぞら」に「おしん」が“援軍”として登場したことになる。民放キー局は戦々恐々としているという。番組制作の関係者は、もはや諦め顔だ。

「民放各局は8時からの15分間に、なるべくCMを入れています。『なつぞら』には勝てないと見ているためです。それにBSプレミアムでは『おしん』も人気のようですから、本当に頭が痛いですよ。おまけに、同じくBSプレミアムでは、7時45分から『にっぽん縦断 こころ旅 朝版』が放送されています。火野正平さん(69)が自転車で全国を回る人気番組。15分間の予告編的な内容ですが、これも視聴率を持っています。7時15分から8時15分までの1時間、BSと地上波を合わせて、NHKさんに視聴者を根こそぎ持っていかれる可能性もあるんです」

“令和のおしんブーム”が更に広がっていくかどうか、鍵を握るのは20代と30代の視聴者だという。つまり「あまちゃん」(2013年)で朝ドラの魅力を知った層だ。

「藤井さんが『あさイチ』で、7歳のおしんが奉公に出るためイカダに乗せられ、母親や父親と別れるシーンに衝撃を受けたと“ボケ”で使っていましたが、初めて見る視聴者も同じ感想だったでしょう。最近の朝ドラはかなり好調ですが、その“テイスト”と『おしん』の作風は全く違います。簡単に言えば、『おしん』は非常に重くて暗い。それが新鮮なドラマとして受け止められ、SNSで話題になっているのでしょう」(同・番組制作関係者)

 NHKの公式サイトには、5月11日までの放送予定が掲載されている。この日に放送されるのは第36回。小林綾子演じる「少女編」のラストだ。

 第37回からは「青春編」が始まる。いよいよ田中裕子の登場だ。今後もSNSが盛り上がるのは必至だろう。

週刊新潮WEB取材班

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]