「いきなり!ステーキ」はラーメン「幸楽苑」の救世主 なりふり構わぬ奇策が大当たり

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実は上場企業

「幸楽苑というラーメンチェーン」――こう記事を書き出しても、「?」マークが浮かぶ人は決して少なくないだろう。公式サイトを見てみれば、47都道府県のうち22都府県にしか進出していない。

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 本社は福島県郡山市。店舗網が偏っているのは、幸楽苑が“ドミナント戦略”を採用しているからだ。辞書『大辞林』は「一定の地域に集中的に出店して認知度などを上げ、類似する競合他社に対する優位性を保とうとする出店戦略」と定義している。

 北海道や九州では無名でも、東北や関東では、おなじみのラーメン店だ。「極上中華そば」は421円、「餃子『極」』は237円、「絶品半チャーハン」は334円。アルコールもある。「生ビール中ジョッキ」は496円、「冷酒」は453円。いずれも税込みだ。

 つまりは「日高屋」や「バーミヤン」のライバルと言えば分かりやすいだろう。経済担当記者が解説する。

「1954年、会津若松市に開店した食堂が原点ということです。現在の同社会長が64年に東京の中華料理店で修行。数年して会津へ戻ると、チェーン化を目指して法人化や工場建設などに着手しました。地元で地盤を固め、70年代から東北、北関東、都内などへの進出に成功します。そして2003年には東証一部へ上場を果たしました」

 この幸楽苑、一時期は危機説が報じられていたのだが、ユニークな手段で業績を急速回復。関係者の間で注目を集めている。

 例えば株価だが、昨年7月は1500円台まで落ちこんでいたのを、4月12日の時点で3160円まで戻している。

日経MJは3月27日、「外食6割 20社が減収 35社2月既存店 客足なお鈍く」の記事を掲載した。同紙が外食産業の有名35社を独自調査。2月の売上高をまとめたものだ。

 記事では調査結果を《35社のうち21社が前年実績を下回った》と報告。原因として《野菜の価格が安値で推移している》ことを指摘し、外食・中食産業では《相対的に割高感》が感じられているとした。庶民の財布は、依然として紐が固いようだ。

 では、日経MJが発表した35社の2月売上高の一覧から、前年同月比のベスト5とワースト5を抽出してご紹介しよう。表にまとめた。

 幸楽苑が2位にランクイン。つまり外食産業では数少ない“勝ち組”なのだ。もっとも、つい最近まで危機説が報じられていたのは、冒頭でご紹介した通りだ。

 日経は18年10月31日(電子版)、「幸楽苑、赤字脱却メド 再成長探る 社長に新井田昇氏」と報じた。一部を引用させていただく。

《幸楽苑ホールディングスは31日、新井田傳社長が11月1日付で会長に就き、長男の新井田昇副社長が社長に昇格する人事を発表した。2019年3月期は2期ぶりに赤字から脱却する見通しとなるなど業績不振から脱却するメドがたったと判断し、経営の若返りを進める。新社長は再成長策を探ることになる。
新井田昇氏は三菱商事を経て幸楽苑(現幸楽苑ホールディングス)に入社。その後楽天に出向するなど社内外で経験を積み、早くから後継者候補とみられていた。
幸楽苑は過去の大量出店で採算管理が甘くなっていたところに16年10月のラーメンへの異物混入事故が発生。客離れが起き前期は32億円の当期赤字を計上した。監査法人からは事業継続のリスクを指摘された》

 同社の08年から19年にかけての売上高を折れ線グラフにしてみた。ご覧いただこう。

 山あり谷あり。決して平坦な道のりではなかったことが分かる。経済担当記者が言う。

「幸楽苑の大きな危機は、これまでに3回ありました。最初は11年の東日本大震災。震災による営業停止店舗は最大184店に達し、グラフでも大きく下がっていることが分かります。翌年から業績を回復させますが、長く続くデフレ経済で、安売り競争が過熱。低価格路線の幸楽苑には追い風だったにもかかわらず、コンビニ業界が強力なライバルとして立ちはだかりました。コンビニとの激しい顧客獲得競争で疲弊したのが、第2の危機でした」

 それでも幸楽苑は組織改革を行い、新メニューの提供により客単価の上昇を目指した。グラフがじわじわと上昇しているのが分かる。

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