間違いだらけの「がん検診」 子宮頸がんと乳がん、本当に受けるべきなのはこんな検査

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恐ろしい過剰診断

 これまで五つの対策型検診をみてきたが、(1)で述べた「高齢者の偶発症」とともに、検診で心しておかねばならないのが「過剰診断」、すなわち「見つけ過ぎ」のデメリットである。たとえ緊急性や悪性度の低い腫瘍であっても、ひとたび発見されればさらなる精密検査が求められ、精神的・肉体的負担は増すばかり。日本消化器がん検診学会の渋谷大助理事長が言う。

「日本のがん検診では『なるべく見落とさないように』との理念が浸透していますが、欧米では『多少見落としがあったとしても、なるべく不要な精密検査を受けないように』という考えが主流なのです」

 中には緩やかに進行するがんもあり、

「全国の病理解剖記録をまとめた『日本病理剖検輯報(しゅうほう)』によれば、70代男性の遺体を解剖したところ、いずれも直接的な死因でないにもかかわらず、その3割から前立腺がんが見つかりました。がんを抱えながらも天寿を全うできるケースもあるのに、人命に影響を及ぼさないがんのために費用を払って検診し、いったん見つかれば負担のかかる治療をしているわけです。難しいのは、その時点で『放置しておいていい』という判断ができない点です。検診で見つかれば、治療せざるを得ません」(同)

 結果、それが過剰診断である可能性は否めない。手術ともなれば、むろん後遺症のリスクも生じるわけで、国立がん研究センターの中山富雄・検診研究部長は、

「甲状腺がんは、とりわけ過剰診断されやすいのです」

 と、一例を挙げる。

「韓国では99年に検診が流行り、ソウルの病院で人間ドックを受けるのがブームになるなど、7~8割の人が検診を受けるまでになりました。ところがそれに伴い、甲状腺がんの罹患者数が、統計を取り始めた01年から15倍以上に増えてしまった。社会問題化した14年には、4万4千人(肺がんの2倍)も手術で甲状腺を切除され、その偶発症で11%の人が、ホルモン分泌が不調となって生涯投薬が必要となり、また2%の人が、声がかすれて誤嚥の原因となる嗄声(させい)に罹ってしまったのです」

 まさしく寿命を縮めてしまったことになるのだ。

「医者はなかなか『切除は不要』とは言いにくいものです。患者さんも悪性のケースを恐れて手術に踏み切るわけですが、そのリスクが高いのであれば、高齢者はいっそ検診を“卒業”して、最初から受けないほうがいいとも言えます」(同)

 がんの早期発見・治療が重要なのは言うまでもないが、それは正しい受診法と賢明な判断が大前提となる。薬も過ぎれば毒なのだ。

週刊新潮 2019年3月7日号掲載

特集「年齢・部位別に検証! 間違いだらけの『がん検診』」より

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