安い! 広い! 面白い! 「欧州民泊漂流記」家族旅行編1 

国際Foresight 2019年3月5日掲載

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 「ウチはもう、家族旅行はエアビーばっかり。民泊ね、民泊」

 ある夏の日のロンドンのオフィス。現地スタッフのお姉さまがふと漏らしたつぶやきが、我が家の欧州漂流の旅を一変させるとは、私は思いもしなかった……。

「高くつくのが悩みで……」

 というほど大げさな話ではありませんが、私の家族は2016年春から2年のロンドン駐在期間中、かなりアチラコチラへ旅行に行きました。その際、大変重宝したのが「Airbnb(エアビーアンドビー、通称エアビー)」などのいわゆる「民泊」サイトでした。

 冒頭のセリフは、2016年の夏にイングランドとスコットランドを自家用車でぐるりと回る家族旅行から戻った私が、「イギリスは高速料金はタダでいいけど、ホテル代が高くつくのが悩みで……」とこぼしたのに、旅慣れたお姉さまが授けてくれたアドバイスです。

 高井家は夫婦プラス三姉妹の5人家族です。ご存知の通り、ホテルというのは「1部屋2人」がデフォルトで、我が家の場合、ファミリールームにプラス1部屋か、3部屋とらないと、ゆっくり寝られません。安宿で済ませる手もありますが、40歳の坂を越えると、それもなかなか辛いものがあります。

 正直、「民泊って、どうなのよ」という偏見のようなものがあったのですが、試してみると、「これは面白い!」と私も家族もすっかりハマってしまいました。

 ヘビーユーザーには「何を今さら」という情報でしょうが、ささやかな経験をもとに欧州の民泊事情の一端をシェアしてみたいと思います。

 最初にお断りを。

 民泊と言えばエアビー、エアビーと言えば民泊ですが、ご紹介する宿泊先にはホテル予約サイトBooking.Comを通じてみつけたところも含みます。少なくとも欧州では、民泊とホテルが「同じ土俵」に乗っかっています。厳密な線引きにはあまり意味がないので、体感で「ホテルっぽくない、民泊っぽい」と思ったケースを幅広く紹介しています。

 では、高井家の欧州民泊漂流記、お楽しみください。

はじまりはアルハンブラ

 私はビビり体質なので、最初に試したのは民泊とホテルの中間的な「アパートメント貸し切りタイプのホテル」でした。2016年末のことで、行き先はスペインのグラナダ。アルハンブラ宮殿と旧市街のアルバイシンをお目当てに、往路のトランジット観光でバルセロナのサグラダファミリアも見て回りました。メジャーどころなので観光の詳細は割愛しますが、アルハンブラは我が家で屈指の好評スポットであります。

 グラナダで宿泊した「オロ・デル・ダロ・スイーツ(Oro del Darro Suites)」は今、Booking.Comで見てみても超高評価の人気宿です。チェックインは常駐スタッフがいるフロントで済ます形で、いわゆる民泊ではないのですが、鍵を受け取ったら宿泊期間中はベッドメーキングや朝食などのサービスは無し。観光やお勧めのレストランなどの相談にはスタッフが応じてくれます。英語が通じるので助かります。

 このときの部屋が素晴らしく、「ホテルより断然アパートメント!」という高井家の志向を決定しました。天井が高く広々とした部屋に配された欧州らしい素敵な家具と内装。ダブルのベッドルーム2つに加えてリビングに2人がゆっくり寝られるキングサイズのソファベッドがあり、調理器具と食器類、調味料まで充実したキッチンでは本格的な自炊も可能です。

 一般のホテルの部屋は、「規格品」の安定感はありますが、無国籍というか無個性で、面白みには欠けます。対照的にアパートメントタイプは個性的な部屋が多く、しかもホテルサービスがない分、料金は割安です。

 オロ・デル・ダロ・スイーツはアルバイシンの裾野にあり、玄関を出たらダロ川越しにアルハンブラ宮殿が見え、市街中心部までも徒歩5分ほどという好立地。日本流に言うと3LDKで90平米ぐらいの広さでありながら、1泊2万円ほどでした。同条件のホテルのスイーツなら数倍はかかるでしょう。

 家族にも大評判で、この旅を機に私は密かに「家族旅行はコスパ重視の民泊系で攻めて、良いホテルは出張のときに1人で楽しもう……」と決心したのでした。

花のパリのアパルトマン

 高井家の民泊“本格”デビューは、2017年5月に行ったパリ。奥様の誕生日プレゼントを兼ねた旅行でした。

 行きのユーロスターでお隣になったロンドンで働くパリジェンヌ、イレーヌさんと仲良くなり、アニメファンのイレーヌさんの友人が「亀」の紋章入りのドラゴンボールのコスプレ姿でパリ北駅で合流するという謎の幕開けとなったこの旅。宿の最寄りのサン・シュルピス駅に向かう地下鉄が運行停止で困っていたら、イレーヌさんと亀仙人の弟子が隣駅まで案内してくれて、迂回ルートで無事に宿に到着しました。イレーヌさんには「パリで一番おいしい」というノートルダム大聖堂近くのアイスクリーム屋さんも教えてもらい、実際行ってみると、行列のできる人気店で激ウマでありました。

 閑話休題。

 セーヌ川の南、レンヌ通り沿いのアパルトマンはルーブル美術館と、ベルサイユ宮殿までの電車が出ているモンパルナス駅のほぼ中間に位置していました。散策がてら徒歩でも観光地にアプローチできるし、地下鉄の駅はすぐそこ。ベルサイユまでのアクセスも楽ちんということで選びました。ファミリールームがあるホテルは数が少なく、ロケーション選択の自由度が低いのが難点ですが、その点、民泊ならパリ中心部だけでもどれを選んでよいか困るほどそこら中にあります。宿泊先セレクトのノウハウは次章で。

 民泊の面白さの1つに「チェックインまでのプチ冒険感覚」があります。

 ホテルのように看板が出ているわけではないので、宿を探すのに一苦労することがあり、これがちょっとワクワクするのです。

 パリの大通りの町並みは、綺麗に高さがそろった6~7階の建物が並び、1階部分にお店やレストランが入っているというのが典型的なパターンです。観光で歩いていると見過ごしがちですが、このお店などの合間合間に大きな扉があります。その奥から上層階につながるエントランスや中庭などにアクセスできるようになっているケースが多いようです。

 我が家の宿泊先も同様で、住所を頼りにレンヌ通り沿いを「どこだどこだ」と家族でウロウロと探しました。これがなかなか楽しい。この時初めて、パリもイギリスと同じように、道の片側に番地が奇数の家が並び、反対側に偶数の番地が並んでいるのを知りました。

 ようやく見つけた高さ3メートルほどもある重厚な木製の扉を押し開けると、そこは薄暗いトンネルのような空間。車がひっきりなしに行きかう大通り沿いでも、一歩入れば静かな別世界があります。目を上げると、テラスのようなオフィススペースでは何人かが談笑していて、外の喧騒とは違う時間が流れています。

「全員集合」の楽しさ

 このアパルトマンでは初めて、民泊独特の「カギを探せチェックイン」体験をしました。これはちょっとしたゲーム感覚の面白さがあります。もう1つのパターン、「お出迎えチェックイン」方式は部屋の使い方の確認と一緒に、レストランや買い物の情報を仕入れられるメリットがありますが、こちらも次回で。

 「カギを探せ」方式の場合、通常はチェックインの数日前に詳細がメールやアプリのメッセージで届きます。このアパルトマンの場合、前述したトンネル風のホールにナンバーロック式のポストがあり、メールで教えてもらっていた番号を入力するとカギをゲットできるというシステムでした。初体験なので、子どもたちにも「なにこれ、面白い」とウケてました。

 部屋は中庭の一番奥の1階に位置していて、間取りは日本風に言うと2LDK。ベッドはシングル2つにダブルが1つ、ソファベッドが1つ。シンプルながら素敵な内装で、立派なキッチンの冷蔵庫にはウェルカムワインが。その日は5月にしてはかなり暑い日だったのですが、予め冷房まで効かせてある気配りの良さに感心しました。観光のアクセス抜群のロケーションで、これだけの豪華な空間を独占でき、お値段はもろもろ込みで3泊500ポンド、7万円ほど。現地で暮らしていると、物価感覚による体感レートは1ポンド100円ぐらいなので、非常に割安な印象です。

 観光はベルサイユ宮殿、ルーブル美術館、凱旋門、エッフェル塔、セーヌ川クルーズ、ノートルダムなどなどお上りさんコースまっしぐらでしたので、詳細は割愛します。

 アパルトマンが便利だったのは、常に「全員集合」状態なこと。ホテルで5人連れだと、デカいスイートでも取らない限り部屋が分かれてしまいますから、これは一部屋貸し切りタイプの民泊の大きなメリットです。

 滞在中、朝ごはんは毎朝、立派なダイニングテーブルで、近所のお店で買っておいたパンに、備え付けのエスプレッソマシンで淹れたコーヒー。ホテルやカフェの朝食は無駄に高いので、これは美味しい&経済的。街で美味しそうなパン屋を見つけて翌朝のご馳走を物色するのも楽しいものです。我が家は「昼と夜は外食」と決めていたので利用しませんでしたが、民泊だと調理器具と調味料一式がそろっている部屋が多いので、その気になればがっつり自炊もできます。

 しかし、パンだけじゃないですが、パリの食べ物レベルはなぜあんなに高いのか。たった電車で2時間なのに、ロンドンとの差が……。

 「全員集合」状態は、朝食だけでなく、1日の終わりに家族とゆっくり団らんできる楽しさもあります。その日の観光やレストランの感想、ちょっとした失敗談、撮った写真の交換(たいていWi-Fiがあります)、翌日の作戦会議などなど、ソファやベッドでゴロゴロしながら、リラックスした時間を過ごして、高井家名物の旅の記録ノートに感想や日記をつける。旅から刺激を受けた子供たちの新鮮な喜びの声を聞くと、ツアコン役のお父さんとしても報われた感が得られて、とてもグッド。

 やっぱり家族は、バラバラより、一緒の方が楽しいですよね。

 ちなみにこの時は「宿で荷物をピックアップしてユーロスターが発着するパリ北駅まで運んでくれる」というサービスを利用しました。チェックアウト後、最終日に身軽に観光できるので、少々お高いようにみえて時間を買うと思えばリーズナブル。こちらもオススメです。

 次回はアイルランド島のダブリンとベルファストで出会った素敵で割安なお部屋のお話を。

 お楽しみに!(つづく)

高井浩章
1972年生まれ。経済記者・デスクとして20年超の経験があり、金融市場や国際ニュースなどお堅い分野が専門だが、実は自宅の本棚14本の約半分をマンガが占める。インプレス・ミシマ社の共同レーベル「しごとのわ」から出した経済青春小説『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』がヒット中。
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