Netflixに巨匠映画監督が続々参入 資金力だけじゃない彼らを惹きつける理由

エンタメ 2019年2月15日掲載

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 ネット配信サービス大手の「Netflix(ネットフリックス)」に、“巨匠”と呼ばれる映画監督が続々と参入している。「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」を手掛けたアルフォンソ・キュアロンや、「タクシードライバー」のマーティン・スコセッシなど、いずれも錚々たる面々だ。なぜ、彼らは劇場公開されないNetflixに活動の場を移しているのだろうか…。

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 劇場に足を運び、ポップコーンを頬張りながら映画を観る――。そんな時代が終わりを告げるかもしれない。

 Netflixは、月額制で数千本の映画やドラマをネットで配信するサービスだ。既存の映画やドラマ作品の配信も行っているが、独自に製作したオリジナルコンテンツにも定評がある。視聴者数は世界で1億2500万人を超え、1作品あたりの平均視聴者数は900万人以上にも達する。

 この巨大なプラットフォームに、これまで劇場映画で名を馳せてきた巨匠映画監督たちも、続々と参入してきているのだ。

 その状況を映画評論家の小野寺系氏は次のように語る。

「現在、アカデミー賞にノミネートされている『ROMA/ローマ』は、Netflixのオリジナル映画です。監督を務めたのは、アルフォンソ・キュアロン。彼は2014年に『ゼロ・グラビティ』でアカデミー監督賞を受賞している有名な監督です。また、『ディパーテッド』『沈黙―サイレンス―』など数々の傑作を作り続けてきたマーティン・スコセッシ監督も、主演にロバート・デ・ニーロを据えた作品をNetflix製作配給で公開予定です」(小野寺系氏、以下同)

 ほかにも、「ホーム・アローン」「ハリー・ポッターと賢者の石」の監督であるクリス・コロンバスもNetflixのオリジナル映画「クリスマス・クロニクル」を製作。アカデミー作品賞やカンヌ国際映画祭パルム・ドールの受賞歴を持つコーエン兄弟(ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン)の監督作「バスターのバラード」も同様だ。

「Amazonなどネット配信の競合他社に比べ、Netflixはオリジナル製作作品が多い。その気合の入れ方は尋常ではなく、オリジナルコンテンツに2018年は80億ドル(約9千億円)も投入しました。こうした潤沢な資金力によって、Netflixのコンテンツは作られているのです」

 2018年、英誌「エコノミスト」が掲載したゴールドマン・サックスによる試算では、Netflixの130億ドル(1.4兆円)のコンテンツ予算の内、85%がオリジナル製作のドラマや映画に投じられたという。

ハリウッドにはない作家性の重視

 周知の通り、ハリウッドでの映画製作は、日本とは比べ物にならないほどの潤沢な資金と人員規模で行われている。作品も全世界へ配給され、ヒットすれば巨万の富を手にすることも夢ではない。

 そうした既存の映画業界からも引く手あまたな監督でさえ、劇場公開されないNetflixで映画を作る理由はなんなのか。

「Netflixで製作することの最大の魅力は、監督自身の撮りたい企画を尊重してくれる場合が多いことです。とくに近年のハリウッドでは、アメコミなど人気映画の続編や原作モノに有名監督を当てはめて作品が作られることも多い。もちろん、そうした作品のなかにも良いものはありますし、収益が見込める作品ほどギャラも良くなるとは思いますが、一方で監督自身が作りたいオリジナル作品を撮れないことにジレンマを感じているケースもあるようです。そんなクリエーターとしての欲求を満たしてくれる存在の一つとして、Netflixがあるのでしょう」

 先述したクリス・コロンバス監督もインタビューで、「Netflixはアーティストとしての自由を与えてくれた」と語っている。

 また、ネット配信の場合は、自分が撮った作品がすぐに公開される。そのことも監督によっては魅力を感じる点ではないだろうか。

旧態依然の映画業界をぶっ壊す

 先にも触れたように、現在、Netflixはオリジナル映画の「ROMA/ローマ」がアカデミー賞作品賞にノミネートされるなど、賞レースにも絡むようになり、映画業界全体の牽引役を担っていることはもはや論を俟たないだろう。

「今年初め、ハリウッドのメジャー映画会社で組織された業界団体『アメリカ映画協会』に、Netflixがネット配信業者として初めて加入することが決定しました。このことから、Netflixは大手映画会社と肩を並べたことがわかり、一配信業者と呼ぶにはふさわしくないほど、大きな存在となっています」

 このように、劇場公開をしないビジネスモデルで成功を収めているNetflixだが、一方でその方針に異議を唱える声もある。

 たとえば、カンヌ国際映画祭は、「フランスで劇場公開しない作品は、コンペティション部門への参加が認められない」と、明らかなNetflixの締め出しを宣言した。あるいはスティーブン・スピルバーグ監督も、過去Netflix作品がアカデミー賞にノミネートされた際に「オスカー候補にふさわしくない」と語っている。

 侃々諤々の議論を起こしているNetflixだが、今後の映画業界にとっていかなる影響を及ぼすのだろうか……。

「映画の楽しみの一つには、たしかに劇場の大画面で観る臨場感があるのは無視できません。しかし映画の面白さの本質は、あくまで作り手の“創造力”にあると思います。Netflix作品のなかには、それを満たしている作品がいくつもある。そういう作品と、劇場で上映される作品との間に、本質的な違いが存在するとするなら、それは観客側というよりも、既存の映画業界側の事情なのかもしれません。そして、“映画は劇場で観るもの”という先入観に、Netflixは大きな一石を投じたのです」

 さらに、近年のハリウッドでは、商業主義に走る映画会社が「クリエイティブ上の違い」などの理由から監督を交代に追い込む事案が相次いでいる。12月に公開予定の「スター・ウォーズ エピソード9」や、大ヒット上映中の「ボヘミアン・ラプソディ」などの作品でも監督の途中交代があったばかりだ。

 記録より記憶に残る映画を撮る――。作家性が軽んじられている時流に、Netflixにクリエーターが集結するのはある意味必然なのかもしれない。

取材・文/沼澤典史(清談社)

週刊新潮WEB取材班