菅長官に睨まれる東京新聞「望月記者」と朝日新聞が共闘!? “官邸申し入れ”に徹底抗戦

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朝日新聞とハフポスト日本版が東京新聞を応援!?

 この“騒動”の背景も踏まえ、分かりやすく報じた新聞社の1つに、朝日新聞がある。2月6日の「記者質問を制限、首相官邸に抗議 新聞労連が声明」には、なぜ官邸サイドが文書を送りつけたのか、その経緯が明記されている。該当部分を引用させていただく。

《首相官邸は昨年12月28日、首相官邸の記者クラブ「内閣記者会」に対して、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事に関する東京新聞記者による質問について「事実誤認がある」として、「当該記者による問題行為については深刻なものと捉えており、貴記者会に対して、このような問題意識の共有をお願い申し上げるとともに、問題提起させていただく」と文書で要請。これに対して記者クラブ側は、「記者の質問を制限することはできない」と伝えた》

 普天間の移設問題に関する質問が背景にあったことが、これで分かる。ちなみに朝日の記事にも、新聞労連が上村室長に対して抗議している部分がある。ここも引用させてもらおう。

《官房長官の記者会見で司会役の報道室長が質問中に数秒おきに「簡潔にお願いします」などと質疑を妨げていることについても問題視。官邸側が「事実をねじ曲げ、記者を選別」しているとして、「ただちに不公正な記者会見のあり方を改めるよう、強く求める」としている》

 更に朝日新聞は7日の紙面にも「(Media Times)記者を問題視、官邸に批判 辺野古巡る質問『事実誤認』と文書」と詳報する記事を掲載した。文中では「東京新聞記者」としか書かれていないが、望月記者の質問のうち何を官邸は問題視したか、具体的に明かした。

《官邸が問題視したのは、昨年12月26日の記者会見での東京新聞記者の質問。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事に関し、「埋め立ての現場では今、赤土が広がっております」と前置きし、「政府としてどう対処するのか」などと問うた。
 官邸側は文書で、質問の「現場で赤土による汚濁が広がっているかのような表現は適切ではない」と指摘。会見がネットで動画配信されていることなどから、「内外の幅広い層の視聴者に誤った事実認識を拡散させることになりかねず、会見の意義が損なわれる」として、「当該記者による問題行為については深刻なものと捉えており、貴記者会に対して、このような問題意識の共有をお願い申し上げるとともに、問題提起させていただく」と要請した。
 首相官邸報道室によると、東京新聞に対して官邸は「事実に基づかない質問は厳に慎む」よう繰り返し求めていたという》

 これで官邸が望月記者の何を問題視しているのか、その全容が明らかになったわけだが、今度はハフポスト日本版が、新聞労連が官邸に抗議した経緯を詳報した。

 このハフポスト日本版は、アメリカの本社と朝日新聞が合同事業として行っている。2月6日に掲載された「官房長官の会見で東京新聞記者の質問制限→官邸の申し入れに新聞労連が抗議。真意を聞いた」は、新聞労連の南彰委員長にインタビューしたものだ。

 先に触れた中日新聞の「本紙記者質問制限に抗議」の記事にも、「南彰委員長」の名前は記されている。そしてハフポストの記事は「新聞労連の南彰委員長(朝日新聞社)」と表記した。実は南委員長、朝日新聞の記者なのだ。

 このハフポストの記事で、昨年12月28日に文書で申し入れが行われたことに対し、なぜ年明けの2月5日に抗議を行ったのか、という問いに対し、南委員長は「2月1日の『選択』の記事で初めて知った」と回答している。

 事実関係を追う上で、重要だと思われる南委員長の説明を、1箇所だけ引用させていただこう。

《当初、記者クラブに対しては、もっと強いトーンでこの記者の排除を求める要求が水面下であったようです。記者クラブがこれを突っぱねたため、紙を張り出すかたちで申し入れを行ったと聞いています。クラブとしては、これを受け取ってはいない、ということです》

 ここまで見てみると、東京新聞を朝日新聞が応援しているように見えるのだが、少なくとも望月記者と朝日新聞の南記者は、会社の枠を超え、相当な“協力関係”にあるのは間違いない。

 例えば、財界展望新社が刊行する月刊誌「ZAITEN」3月号には「望月衣塑子記者は『参院選不出馬宣言』官邸が睨む記者が暴く『安倍政治の嘘八百』」という記事を掲載した。実を言うと、この記事は望月記者と南記者の対談なのだ。

 望月記者と南記者が会見で、次第に菅官房長官に“目をつけられる”ようになっていく経緯を自分たちで説明したところが読みどころの1つだが、対談では協力関係にあったことが明記されている。

望月 (略)私と一緒に質問していた南さんまで、マークされるようになりましたね。

南 記者の質問時間は他の記者と変わらないのに、望月さんだけが司会者から「質問を簡潔にするように」とか「質問は事実に基づいて」と注意されるようになった。実際は官房長官の側が事実を全く無視した答弁をしているのに。

望月 ただ、菅さん側は、秘書官などを通じて「あいつをいつまで来させるんだ!」「あんな質問は印象操作だ!」など、いろいろとプレッシャーを番記者にかけているようで、彼らが一時期は大変だったとも聞いています。

南 望月さんの取材手法に対して反感を持つ記者が各社にいるのは事実です。でも、会見で聞くべきことがあるなら聞き続けるのはジャーナリズムの王道》

 誌面に掲載された、望月、南両記者の経歴もご紹介しよう。

《望月衣塑子(もちづき・いそこ)1975年生まれ。東京新聞社会部記者。日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑などでスクープ(後略)》

《南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年朝日新聞社入社。東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。政治からの発言のファクトチェックに取り組む(後略)》

 この対談記事でも紹介されているが、お二人は新書の共著者でもある。昨年12月に「安倍政治 100のファクトチェック」(集英社新書)を上梓しているのだ。Amazonに掲載されている、新書の宣伝文を見ておこう。

《ファクトチェックとは、首相、閣僚、与野党議員、官僚らが国会などで行った発言について、各種資料から事実関係を確認し、正しいかどうかを評価するもの。トランプ政権下の米国メディアで盛んになった、ジャーナリズムの新しい手法である。本書は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組んだ、日本の政治を対象にした本格的ファクトチェック本(後略)》

 ニクソン大統領を失脚させたウォーターゲート事件は、ワシントン・ポストのボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインという2人の記者による調査報道で明らかになったことはあまりに有名だ。

 もともと望月記者の質問には、“権力の監視がメディアの役割”などという堅い話を抜きに、ある種の爽快感を覚えるファンが少なくないのは事実だ。

 望月と南の両記者は――所属する会社は異なるものの――「日本のウッドワード&バーンスタイン」と評価される日が来るのだろうか、それとも「協力関係が目に余る」と非難されるのか、今後、世論がどのように反応するかも注目ポイントの1つだろう。

週刊新潮WEB取材班

2019年2月13日掲載

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