世界4大トッププレーヤー「決断」の「理由」

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 2019年に入り、米ツアー選手たちの今季のスケジューリングが想像以上に変わりつつある。しかも、その話題に上るのはメジャーチャンピオンやビッグネームばかりだ。

 現在の世界ナンバー1、英国出身のジャスティン・ローズ(38)を皮切りに、北アイルランドのローリー・マキロイ(29)、オーストラリアのアダム・スコット(38)、そして米国の国民的スターであるフィル・ミケルソン(48)。

 果たして今、何がどんなふうに彼らのスケジューリングを左右しているのかを追ってみた。

慎重かつアクティブな「ローズ」

 先週、1月17~20日に米カリフォルニア州PGAウエスト・スタジアムコースで開催された「デザート・クラシック」にジャスティン・ローズの姿があった。

 ローズが同大会に出場したのは2010年以来、実に9年ぶりのこと。それは、世界ナンバー1の選手が同大会に出場したこと自体、世界ランキングが創設された1986年以来、初めてという歴史的な出来事になった。

 とは言え、ローズは同大会の歴史を塗り替えたくて出場を決めたわけではなかった。

 昨季、世界選手権シリーズ(WGC)の「HSBCチャンピオンズ」と「フォートワース招待」を制し、シーズン2勝を挙げたローズは、2019年の年明け早々にハワイで開催された「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」の出場資格を有していた。

 だが、彼は「ハワイに行って試合に出るのは時期尚早。まだ僕の準備ができていない」とハワイには赴かず、その代わり、自身にとって9年ぶりとなるデザート・クラシックを2019年のキックオフ戦にすると決めた。

 ローズが言った「僕の準備」には2つの意味が含まれていた。1つはクラブに対する準備。もう1つはキャディに関する準備だ。

 長年愛用してきた「テーラーメイド」のクラブを今年からは新たに契約を結んだ「本間ゴルフ」のクラブに持ち替えたばかり。そして、長年の相棒キャディが昨年、心臓の手術を受けたため、当面は臨時キャディを付けて挑むことになり、かつてヘンリック・ステンソンのバッグを担いでいたベテランキャディのギャレス・ロードを起用したばかりだ。

 クラブ、キャディ等々、すべての準備ができるまでは試合には出ず、準備が整ったと感じたら、従来の日程を変えてでも、さらなる勝利を目指していく。焦らず熟考し、決断したら迷わず始動。

「サンディエゴ(で開催される「ファーマーズ・インシュランス・オープン」)の前に、ここ(デザート・クラシック)でプレーすることは、僕にとって、とても大事」

 そんな慎重かつアクティブな姿勢は、ローズの長年のキャリアにも今回のスケジューリングにも反映されている。そうやって、何があってもポリシーを貫く意志の強さが、世界ナンバー1の最大の強みだ。

我が道を行く「マキロイ」

 かつての世界一で、メジャー4勝を含む米ツアー通算14勝のローリー・マキロイは、2007年に欧州ツアーでプロデビューし、2009年から米ツアー参戦を開始して以降、これまでずっと欧米両ツアーを掛け持ちで戦ってきた。

 しかし、今年は米ツアーがシーズンエンドのプレーオフ3試合を終える8月までの間、「米ツアーを主戦場として専念する」と公言し、大きな注目を浴びている。

「僕はアメリカ人のエリカと結婚し、妻と一緒にアメリカに住んでいる。生活しやすく、便利で快適。僕の人生は今、アメリカにある。欧州ツアーとの掛け持ちを11年もやってきた。そろそろ違う戦い方をしたい」

 生活云々もさることながら、マキロイが米ツアーを優先する理由は他にもある。賞金も世界ランキングの加算ポイントも高い米ツアーに専念し、さらなる勝利を挙げ、2014年から遠ざかっているメジャー優勝を挙げ、「マスターズ」を制して悲願のキャリア・グランドスラムを達成し、世界一へ返り咲くことを虎視眈々と狙っているマキロイは、30歳になる今年を「勝負の年」に見据えている。

「最高の舞台で、最高のプレーヤーたちと戦いたい」

 欧州ツアー関係者やファンは、米ツアー専念を表明したマキロイを眺め、怒るやら嘆くやら。だが、当の本人は、あくまでもゴーイング・マイウエイだ。

 とは言え、ここから先は、いかにも奔放な性格のマキロイらしさが見て取れて、なかなか興味深い。

 今年から米ツアーの日程が大幅変更され、3月から7月までは毎月メジャーやメジャー級のビッグ大会が開催される。そして8月のプレーオフ3試合でシーズン終了という短期集中型になる。

 その中で、自分が出るべき試合、出たい試合をピックアップしてみたというマキロイは、想像以上の過密スケジュールになることに驚き、「とりわけ『全米オープン』以降は13週間で11試合に出ることになる可能性もある。でも、それはさすがに、トゥ・マッチ(too much)だ」。

 欧州ツアーより米ツアーだと宣言しながらも、米ツアーの新日程は「トゥ・マッチ」と言ってのけるマキロイ。自分の気持ち最優先のこの姿勢こそが、マキロイの一番の強みと言えそうだ。

妙案を捻り出した「スコット」

 一方、2013年のマスターズ覇者、アダム・スコットは、米ツアーの過密スケジュールを「トゥ・マッチ」と感じるからこそ、2019年の世界選手権シリーズ3試合(「メキシコ選手権」、「デル・テクノロジーズ・マッチプレー」、「フェデックス・セントジュード招待」)を欠場すると決めた。

 スコットも自分が出るべき試合、出たい試合をピックアップしてみたところ、それらすべてに出たら「年間30試合を超えてしまうことになる」と気づいたそうだ。

 例年、トッププレーヤーたちの年間の出場試合数は21~22試合が平均的。シード権争いのためにシーズン終盤に必死に連戦するランク下位の選手でも、30試合を超えることはあまりない。

 38歳のスコットは、さらなるメジャー優勝を目指し、息の長い選手生活を維持するためには、日程的な「トゥ・マッチ」を避けるべきと考え、思い切ってビッグ大会である世界選手権への出場を諦めるという妙案を思いついたというわけだ

 なるほど、米ツアーの過密スケジュールに向き合うとき、一番考慮すべきは、心技体すべてに現れる年齢的な衰えだ。次から次にビッグ大会に臨むとなれば、体力気力、集中力に持久力、そして疲労からの回復力など、あらゆるパワーが求められ、そうしたパワーは重ねる年齢とは反比例して減っていく。

 そこを考慮して38歳のスコットが世界選手権を捨てるというのだから、48歳のフィル・ミケルソンが自身のスケジュールを大幅変更するのも「ごもっとも」と頷ける。

自分に正直な「ミケルソン」

 今週、24~27日に米カリフォルニア州サンディエゴのトーリー・パインズGCで開催される「ファーマーズ・インシュランス・オープン」は、地元出身のミケルソンがこれまで28年連続出場してきた大会。だが、今年はエントリーの締め切りぎりぎりまで迷った挙句、「出ない」と決めた。

 ミケルソンは同大会で過去3勝を挙げた実績の持ち主。だが、トーリー・パインズのサウスコースが大幅改修されて7600ヤード超へ伸長され、ラフも深くなった2002年大会以降は優勝が1度もなく、「よほどいいゴルフができていない限り、もはやあの大会は僕にとってグレートな場所ではない」と感じている。

 ミケルソンにとって「グレートな場所」とは、昨年3月に47歳にして4年半ぶりの復活優勝を遂げ、通算43勝目をマークしたメキシコ選手権だ。

 彼は今年、そのタイトルのディフェンドを目指している。だが、これまで出ていた大会すべてに今年も出ようとすると、1月2月だけで5~6連戦となり、肝心のメキシコ選手権や4月のマスターズまでにエネルギーが切れてしまう危険性がある。

 そうならないために、自身の28年間の慣例にあえて終止符を打ち、ファーマーズ・インシュランス・オープンには出ないことを決めたという。

 自分を見つめ、自分の気持ちに正直になって大きな決断を下す。そんなミケルソンの生き様こそが、48歳にして依然トッププレーヤーであり続ける彼の最大の武器だ。

 拡大成長を続ける米ツアーはチェンジの連続である。その中で生き残るためには、自分自身の意志や姿勢を持ち続けられるかどうかが問われる。

 ローズ、マキロイ、スコット、ミケルソンらトッププレーヤーらの柔軟な発想と強靭な意志と独自のスケジューリングは、米ツアーで戦う多くの選手たちの範となりそうだ。

舩越園子
在米ゴルフジャーナリスト。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。

Foresight 2019年1月24日掲載

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