「飛距離」だけではない「チャリティ増大」「システム改革」米ツアーの「秘訣」

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 2019年を迎えたゴルフ界には、1月1日から施行された新ルールにまつわる話題が多々見られる。新しいコトやモノの始まりは、往々にして賛否両論が飛び交うもの。だが、これまで批判や反論を恐れることなく突き進んできた米ツアーは、今年も強気で前進し続けていく様子だ。

 統計によれば、2018年の米ツアー選手の平均飛距離は296.1ヤードで、2017年の292.1ヤードから一気に4ヤードも伸びた。この現実に対し、世界のゴルフ界においては「ゴルフがパワーゲーム化している」「飛距離追求に偏りすぎて、ゴルフ本来の姿が見失われつつある」など、批判的な声も聞かれる。

 さらに、「クラブやボールに何かしらの規制をするべきではないか?」「プロとアマで用具を変えるべきではないか?」など、いろいろな提言も聞こえてくる。

 しかし、米ツアーを率いるジェイ・モナハンPGAツアー・コミッショナーは、そうした声を耳にしながらも、あえて聞き流し、我が道を進むと言う。

「選手層はどんどん若年化し、よりアスレチックになりつつある。そんな彼らはテクノロジーとデータのおかげでクラブの効用を最大化することができ、生み出されるパワーはさらに拡大されていく。コースコンディションや天候は不確実な面が多々あるが、パワーが拡大していく傾向が今後も続いていくことだけは確実だ」

 モナハン・コミッショナーは、選手たちの飛距離が急激に伸びていることに対して、何らかの規制や対策が必要かどうかは、USGA(全米ゴルフ協会)やR&A(ロイヤル&エインシャント・ゴルフクラブ・オブ・セント・アンドリュース)など他のゴルフ統括組織と協力体制を取っていくとしながらも、せっかく確実に拡大しているパワーにあえて歯止めをかけることはしないと言い切る。

「今、ゴルフというスポーツが成長と繁栄を遂げているのだから、その真っ只中に、わざわざ何かを変えようという議論をするのは、まったくもって意味がない」

 選手たちの若年化、体力強化、用具の進化、飛距離の伸長、それらのおかげで実現しているゴルフ界と米ツアーの成長と繁栄。どれも勢いがあり、立ち止まることなどできない。一言で言えば、「やめられない、止まらない」ということだ。

チャリティ総額「3000億円」超!

 ところで、米PGAツアーで大きな伸びが見られるのは平均飛距離ばかりではない。

「PGAツアー」のアンブレラ下にある合計6つのツアー(PGAツアー、PGAツアー・チャンピオンズ、ウェブドットコムツアー、PGAツアー・ラテンアメリカ、マッケンジーツアー・カナダ、チャイナ)が生み出したチャリティ総額は年々増え続けており、その勢いも「止まらない」様子であることは、うれしい限りだ。

「ギビングバック」をスローガンに掲げる米ツアーは、ゴルフとツアーをサポートしてくれている社会に貢献することを最大の存在意義と考えている。

 1938年の「パームビーチ招待」という大会で、ある選手が社会に役立ててほしいという願いを込めて1万ドルを寄付したことが、米ツアーにおけるチャリティ活動の始まりとなった。

 以後、シニアのチャンピオンズツアー、下部ツアーのウェブドットコムツアーでもその動きが広まっていき、今では前述した6つのツアーとそこで戦う選手たちによって、さまざまなチャリティ活動が行われている。

 一昨年は1年間で180ミリオン(約195億円)が集まり、1938年から2017年までの6ツアーにおけるチャリティ総額は26億5000万ドル(約2870億円)に昇ったが、昨年はそれらの数字をさらに上回り、1年間で190ミリオン(約210億円)、チャリティ総額は28億4000万ドル(約3070億円)へ拡大。

「これらの数字は、いかに社会や人々が、このツアーを支えてくれているかの反映であり、証である」

 モナハン・コミッショナーは、人々に支えられながら前進し続けている米ツアーのチャリティ活動とその実績に胸を張った。

大好評の「9&9」改革

 そして、米PGAツアーが誇るものは、さらにある。

 選手と大会スポンサーが招いたゲストがともにプレーするプロアマ戦は、米ツアー発展のための土台となり、糧となる大切な催しだ。そのプロアマ戦を充実させ、有益なものとするための努力を米ツアーは惜しむことなく続けてきた。

 近年のプロアマ戦は、試合前日の水曜日に開催され、プロ52人以内とアマチュア各組4人以内、つまり5サム(5人1組)以内でプレーするというのが基本形だ。

 昨年から採り入れた「9&9」フォーマットは、その基本形にちょっとだけ変化を加えた変形フォーマットで、フロント9とバック9で選手が交替するというものだ。たとえば、前半9ホールをタイガー・ウッズと回り、折り返し後の後半9ホールはウッズとバトンタッチしたフィル・ミケルソンと回る、という具合に入れ替わる形式。昨春から実験的に採用、実施されてきた。

 選手たちの反応はおおむね良好だった。プロアマ戦はどうしても進行が遅くなり、18ホールを回り終えるまでには5時間半、ときには6時間前後を要することもあるのだが、「9&9」であれば、「9ホールだけだと思うことで、従来の18ホールを回るプロアマ戦に臨むときより集中できる」。

 9ホールで誠心誠意、アマチュアをエンタテインすることに努め、他の時間は練習に使うなど、「時間が効率的に使えるし、気持ちの切り替えもできる」など、選手たちからは好評だった。

 そして、プロアマ戦に出場する選手数は52人から104人へ倍増するため、必然的に選手の顔ぶれは多彩になる。

 アマチュアの人々からも、「前半と後半で選手が交替すれば、1人だけではなく2人の選手と一緒に回れるから得した気分」などと、こちらもやはり好評。

 そのため、昨年は7試合でテスト的に採り入れられた「9&9」は、今年は13試合で採用される見込みだという。

 果たして、「9&9」がプロアマ戦のフォーマットとしてベストなものなのかどうか。そこには、必ず賛否両論が出てくるだろう。

 だが、最善か否かを論じるよりも、「好評」という結果が出ているこの「9&9」をとにかく推し進め、プロアマ戦を一層盛り上げ、米ツアー全体を拡充、拡大していくことこそがベストな道なのではないか。

 そう考えると、急激な飛距離の伸びも、社会貢献活動やチャリティ活動の拡大も、プロアマ戦フォーマットの進化や変化も、どれも「やめられない、止まらない」。

 米ツアーは2019年も、歩を止めず、前進あるのみの様子だ。 

舩越園子
在米ゴルフジャーナリスト。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。

Foresight 2019年1月16日掲載

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