「怒りの発散=他人を引きずり下ろす」がつくる不寛容社会 リベラルの怒り方は「間違い」とプロが指摘

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「不寛容」な「ギスギス社会ニッポン」――窪田順生(2/2)

 ベビーカーを押す妻がスーパーのレジでもたつき、中年女性から罵声を浴びた――。今年7月、お笑いコンビ「NON STYLE」の石田明が、こんな内容をブログに綴り、多くの擁護や中年女性に対する批判が寄せられた。公園の花の蜜を吸ったら「窃盗」と批判され、新幹線で肉まんを食べる是非をめぐりテレビで論争……。ノンフィクション・ライターの窪田順生氏は、ニッポンの社会がこうも不寛容になった背景に、“ギスギスの悪循環”があると説く。ある“ギスギス”した出来事が世間の注目を集め、そこから考えの異なる人々同士の罵り合いや嫌がらせが起きる、という構図である。

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 このような「悪循環」を指摘しているのは筆者だけではない。22万人以上の受講者を誇る協会を立ち上げ、「人間の怒り」とは何かということを説いてきた専門家も以下のように述べている。

「怒りを直情的に表現するアメリカ人などと異なり、和をもって貴しとなすという考えが強く、常に周囲の目を気にする日本人は怒りを“スタッフィング”(溜め込むの意)してしまう。この溜め込んだ怒りを発散するためには、誰かを引きずり下ろして溜飲を下げるしかない、と多くの日本人は誤解している。このような間違った怒りの解消法が“ギスギス社会”をつくっている」

 そう語るのは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める安藤俊介氏である。アンガーマネジメントとは1970年代に生まれた、軽犯罪者の矯正プログラムをルーツに持つ、「怒り」をコントロールする技術で、世界中で企業研修やアスリートのメンタルトレーニングなどに広く取り入れられている。安藤氏はそのアンガーマネジメントの世界で15人しかいない「トレーニングプロフェッショナル」として、日本人ではただひとり認定されている。

 そんな「怒りのプロ」が指摘する「怒りの発散=他人を引きずり下ろす」という構図は社会の様々なシーンで見られる。日本労働組合総連合会が2017年におこなった「消費者行動に関する実態調査」によると、一般消費者千名の中で、商品やサービスについて苦情やクレームを言った経験がある割合が39・2%だったのに対して、接客業務従事者千名では58・6%と高い割合となった。日常的に理不尽なクレームに晒される接客業務従事者ほど、怒りを“スタッフィング”している方たちはいないかもしれない。ならば、それを発散するため、「他人を引きずり下ろす」という行為へ走る人たちが、他の職業の方たちよりも多くなるのも納得だろう。誰かに不快にされて怒りを“スタッフィング”した人は、この接客業務従事者の数字に見られるように、「他人を引きずり下ろす」ことで怒りを発散する。

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