小学校「卒業式の袴」問題で賛否両論 格差助長で反対? 伝統尊重で何が悪い?

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

「袴」の新聞報道は2011年から増加

 では、初出の新聞記事にある小学生の卒業式での女子児童の袴着用についてだが、これは10年3月、福岡県福岡市に本社を置くブロック紙・西日本新聞が「巣立ちの春 能楽堂でも 福岡市など公立小」と報じたのが最初のようだ。

 だが、これには特別な事情もあった。記事によると、福岡市立当仁小学校では当時、体育館が改装中。式のため代替施設を探していたところ、近くの能楽堂が使えることになったという。

 文中には「この日、当仁小の6年生101人は能楽堂を意識してか、はかま姿が目立ち」とある。特別な場所に合わせた服装という側面もあった可能性がある。

 それでも袴がブームになる“前夜”と捉えることは可能だ。なぜなら、翌11年になると、全国各地で「袴」の記事が報道されたからだ。見出しと、該当する記事部分をご覧いただこう。

◆11年3月18日:北海道新聞夕刊地方版/函館版「『胸を張って旅立ち』*函館の45小でも卒業式」
〈函館市では45校で卒業式があった。神山小(437人)ではブレザーやはかま姿の6年生91人が緊張した表情で、在校生の楽器演奏に合わせて体育館に入場〉

◆11年3月19日:朝日新聞西部地方版「福岡の小学生が門出 東日本大震災の犠牲者悼み、黙祷も」
〈博多区の板付北小では、卒業生68人がブレザーや、はかまなどの晴れ着で顔をそろえ、卒業証書を受け取った〉

◆11年3月20日:朝日新聞東京地方版/神奈川県版「『困難に負けない』卒業式で児童決意 鎌倉の小学校」
〈卒業生が体育館に入場。正面に「おめでとう」の大きな文字が掲げられ、はかま姿の女子もいて華やぐ〉

 背景の1つとして、呉服業界の動きもあるようだ。例えば京都の着物メーカー「京都丸紅」は09年から、タレントの乙葉(37)と共同で、10歳から13歳を対象とした着物ブランドの販売を開始している。

 販売開始を伝えた08年11月のFujiSankei Business i.には、コーディネートの具体例として「はかまにブーツを合わせハイカラな女学生風」を紹介、着る場面の1つとして「小学校の卒業式」を挙げている。

 和装の減少から、メーカーが若年層向けの需用発掘に力を入れた成果もあるのだろう。少子化の進行で子供1人に投下できる“予算”が増加した上、高齢化で祖父母は4人が健在、喜んで支出を負担するという家庭も少なくないはずだ。

 11年頃から右肩上がりで伸びていったようだが、すると17年頃から問題視する報道が増えていく。見出しをご覧いただきたい。

◆17年3月9日:中日新聞夕刊「小学卒業式 増える袴姿 華美な衣装 自粛呼び掛けも」
◆17年3月17日:読売新聞中部朝刊「卒業式『華美な服、自粛を』小学校、保護者に文書 半田の13校=愛知」
◆17年4月12日:山梨日日新聞「はかま着用自粛?容認? 小学校卒業式富士吉田市教委や保護者に賛否 『困窮世帯への配慮を』『生涯一度かなえたい』」

 神戸新聞が17年3月17日夕刊に掲載した「はかまで卒業式 小学生も 阪神間で拡大 貸衣装店 昨季は100人予約 ドラマ、雑誌で和装に憧れ」の記事には、レンタル店や日本きもの連盟の担当者などが取材に応じ、興味深い回答を行っている。

【1】東北の一部地域ではもともと、小学校の卒業式に袴を着る伝統があった。現在は全国の都市部でブームが起きているようだ。

【2】14年の3月から9月までNHKで放送された連続テレビ小説「花子とアン」と、16年に公開された映画「ちはやぶる」(東宝:小泉徳宏監督[38])の影響もあるのではないか。

次ページ:「自由至上主義」と「自由主義」の対立?

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。