「いきなり!ステーキ」が全国展開完了も、“もう成長は頭打ち”と言われる理由

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原点は立ち食い

 既存店と全店の差。外食産業に詳しい経済記者が言う。

「株式新聞の指摘通り、オープンから15か月を経た既存店の数字が3月を境によくありません。つまり15か月のあいだは目新しさもあって多くの客を集めるものの、その後が長続きしない、という状況なのでしょう。本当のリピーター、常連客を獲得できていないのかもしれません。また5月16日から値上げに踏み切ったことが悪影響を与えているという指摘もあります」

 まずは値上げだが、「いきなり!ステーキ」が発表した「価格改定のお知らせ」から引用させていただく。

《この度、お肉の仕入価格が変更することに伴い、2018 年 5 月 16 日(水)より、一部商品の価格を変更させて頂きます。
※価格は全て税抜きとなります。
・国産牛サーロインステーキ 10円 → 11円(一部店舗販売)
・国産牛リブロースステーキ 10円 → 11円(一部店舗販売)
※ランチの定量カットも同様グラム計算となります》

 グラム1円の値上げと聞けば、大した額ではないように思える。だが、この問題は後に詳しく説明したい。

 その前に、「いきなり!ステーキ」がリピーターを重要視していることを確認しておこう。「肉マイレージ」というサービスがある。航空各社と同じように、食べた肉のグラム数が登録され、それが増えるほど、クーポンやドリンク無料などの特典が得られる。

 値上げ幅が小さく感じられても、リピーターを重視する姿勢を打ち出していても、数字は現実を表す。出店数を増やせば売上は大きくアップするが、その一方で既存店は飽きられていく。

 となると、理論上は新規に店を作り続けるしかない。それは果たして健全な“成長路線”と言えるのだろうか?

「15か月で店を閉めたらいいのかもしれませんが、そういうわけにもいかないでしょう。新規店と既存店の数字が相当な乖離を見せていることは、『いきなり!ステーキ』の急成長に対する赤信号であり、成長が頭打ちになるサインだと理解すべきではないでしょうか」(前出の経済記者)

 外食産業を取材する記者は「先日、都内の『いきなり!ステーキ』で夕食をとりました」と言う。

「300グラムのリブロースステーキと、ハッピーアワーで半額の260円になっていた赤のグラスワインを2杯。会計は消費税を入れて3000円を超えました。リブロースは当初1グラム5円でかつては300グラムが税別で1500円、今は1グラム6.9円で2070円です。率直に言って、かつての『安くて、おいしい』という店とは違ってきています」

 この記者氏が店舗を訪れた時、18時前で客はまばらだったが、客の多くが「CABワイルドステーキ」を注文していたという。

 CABワイルドステーキとはこれまでランチタイムのみに提供していたメニューで、最近ディナーでも提供するようになったものだ。300グラムで1390円(税別、以下同)と、リブロースの2070円と比べるとはるかに安い。

「業界誌の取材に一瀬邦夫社長は、『ワイルドステーキをディナー帯に導入すると来店者が増え、売上増を実現した』、『300グラム分の肉マイレージがゲットできるため、特にヘビーユーザーのお客さまにとって大きな魅力です』と答えています。時機を捉えながら、絶妙に変化させています」

客単価は2000円が限界?

 改めて原点を振り返ると、「いきなり!ステーキ」は値段を格安にするため、客の回転率を重視。当初は立ち食いのステーキ専門店として注目を集めた。

「ところが蓋を開けると、予想以上に女性客と高齢層が来店しました。初期の方針を修正し、回転率の低下は承知の上で椅子を導入、店内で落ち着いてステーキを食べられるようにしました。客層の動向を捉え、店を作り替えたわけです」(同・記者)

 その方針転換も集客増に寄与し、ここまで「いきなり!ステーキ」は駆け抜けてきた。急成長としか表現しようのない拡大路線が株高を生んだことも間違いない。記者氏が語る。

「外食産業には『チェーン店の客単価は2000円が限界』という説があります。メニューの価格を上げる背景には原材料費・人件費の高騰があり、これからも値上げを強いられることになるでしょう。『いきなり!ステーキ』が今の魅力を維持するなら、2000円超の客単価で店舗数を増やし続けるのではなく、そろそろ適正規模を考える時期だと考えます」

 そこで記者氏は、これからペッパーフードサービスがさらに成長するために次のことを提案する。

「『ペッパーランチ』は若い男性が主要な客層ですが、『いきなり!ステーキ』は老若男女さまざまな客層から支持されています。実はペッパーフードサービスには全部で10近い他業態が存在しているんですね。『ペッパーランチ』と『いきなり!ステーキ』を他の業態に取り入れたり、あるいは同社の強みである『肉』を基軸に——例えばシチューといった——新業態を立ち上げることが必要ではないでしょうか」

「1000店の壁」という言葉もある。「マクドナルド」や「サイゼリヤ」でも1000店を超えるまでは頭打ちの苦境を味わったという(「『丸亀』『はなまる』うどん2強に異変 多店舗展開の壁とは」NEWSポストセブン:14年12月7日)。

 毎日食べても不思議ではないハンバーガーなら、1000店を超えることもあり得るだろう。だが、やはりステーキは「ハレ」のご馳走だ。せいぜい「くら寿司」の400店舗くらいが適正規模ではないかと思ってしまうのだが――。

週刊新潮WEB取材班

2018年12月10日掲載

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