「年俸10億円は当然」カルロス・ゴーンに「品格」はあるか――藤原正彦『国家の品格』が投げかけるもの

企業・業界2018年11月23日掲載

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ゴーン氏逮捕の衝撃

 日産のカルロス・ゴーン会長逮捕は今年最大の経済関連ニュースとなった。ゴーン氏が犯罪と関係なく、正規に受け取っていた年俸ですら、多くの日本人にとって違和感があったのは言うまでもない。年俸10億円は、日産が長年協力していた「24時間テレビ」における累計の「日産圏の募金総額」約7億1千万円を大きく上回るのである。
 こうした違和感に対して、従来、ゴーン氏はグローバル企業の経営者の年俸と比べて、決して高くないと強調してきた。実際に、そうした比較をすれば、ゴーン氏の主張は論理的に見える。グローバル・スタンダードで考えてください、そうしないと日本はもうだめになりますよ――バブル崩壊後自信を失っている日本人はそう言われると、反論しづらかったのである。

 日産のV字回復によって、彼の評価がうなぎ上りとなった2005年、こうした「グローバル・スタンダードを目指せ」といった考え方に正面から異を唱えたのが数学者の藤原正彦氏だった。この年発表した著書『国家の品格』の中で、藤原氏は一貫して安易なグローバル化、欧米に右に倣えの風潮に警鐘を鳴らしている。たとえば、世界中を覆いつくしつつあった「競争社会」「実力主義」に対しては、こんな調子だ(以下、引用はすべて同書より)

「もちろん競争社会や実力主義は、組織の繁栄には良いかも知れません。いかなる組織でも、構成員に激しい競争をさせ、無能な者からどんどんクビにして、有能な者のみを残し、新しい有能な者を採り続けるのが一番いいに決まっています。論理的に筋が通っています」

実力主義はケダモノの世界

 まさに当時は「どんどんクビ」にしてでも、業績回復を、というやり方こそが持て囃されていたのだ。V字回復を賞賛し、そこで切り捨てられた人たちには目を背けてきた。
 しかし、藤原氏はこう言う。

「その論理が社会全体を覆いつつあるのを見ると、『ちょっと待て。それは誤りだ』と大声で言いたい衝動に駆られます。

 実力主義を本当に徹底し始めたらどうなるでしょうか。例えば同僚は全員ライバルになります。ベテランは新入りにノウハウを絶対に教えなくなる。教えたら最後、自分が追い落とされてしまいます。したがって、いつも敵に囲まれているという非常に不安定な、穏やかな心では生きていけない社会になってしまうのです。

 世界中の人々が賛成しようと、私は徹底した実力主義には反対です。終身雇用や年功序列を基本とした社会システムを支持します。

 もちろん年功序列だけでは問題でしょう。非常に優秀な人は、何階級特進というような制度はあって当然と思います。給与その他で特別待遇があってもよい。実際に、日本でもそうした仕組みは昔からあったのです。しかし基本は、年功序列とか終身雇用のような、実力主義ではないものにすべきです。そうしたシステムがベースになっていると、社会全体が穏やかで安定したものになっていきます。安定した社会は国の底力でもあります。実際、日本はそうやって世界第2の経済大国を作りました。

 実力主義に反対する人は世界中にほとんどいない。カッコ悪いからです。『お前に実力がないから言ってるんだろ』と思われるのがオチなので、誰も反対しない。
 逆に『実力主義を導入すべきだ』と言ったらカッコ良い。自分は凄く実力があるのにみなが正当に評価してくれない、というような意味を言外に匂わせているのですから。したがって競争社会とか実力主義というのは、野放しにすると必要以上に浸透していきます。究極の競争社会、実力主義社会はケダモノの社会です」

 藤原氏は欧米流の「論理」のみを重視するのではなく、日本人は固有の「情緒の文明」を誇るべきだ、と論を展開していく。
 
 こうした主張は賛否両論を巻き起こしながらも、強い支持を得て『国家の品格』は270万部を突破するベストセラーとなった。

 ゴーン氏に代表されるグローバル化を進めたことで、本当に社会は良くなったのか。穏やかで安定した国に日本は向かっているのか。この点については今も見方がわかれるところだろう。
 ただし、ほとんどの人が報道されているゴーン氏の行状について「品格」は感じられない、と思っているのではないか。

デイリー新潮編集部