「育てることは失敗を経験させること」 トヨタ「中卒副社長」が語る「カイゼン」の本質

ビジネス2018年7月12日掲載

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カイゼンとは何か

 トヨタと聞けばその独特の生産方式、「カイゼン」が有名だ。現場の人間が知恵を出し合って、効率を上げていくやり方は、多くの企業や組織の手本になっていると言ってもいいだろう。

 もっとも、当事者からすると、世間一般の「カイゼン」のイメージには多分に誤解も含まれているという。

 中卒後、一貫して生産の現場で働き続け、同社副社長にまでなった河合満氏への取材を主軸とした『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』(野地秩嘉・著)をもとに、当事者の語るカイゼンの実態を見てみよう。

 副社長となった今でも河合氏は毎日現場を見ている。

「全工場、海外も回って、カイゼンできるところを見つけている。

 何も持たんで歩いているのを見つけたら、声をかけるよ。

『何やっとるの』

『いや、部品が来ないんです』 

 それで手待ちになっていた。そいつが悪いんじゃなくて、システムが悪いんだな、と。その場でカイゼンする。

 現場の床にボルトが1本落ちていた。ボルトの上へ乗ったら、足を滑らせてけがするかもしれん。ボルトを見て、迂回して歩いたら、ムダな歩行になる。そういう小さなこと、ひとつひとつをカイゼンするのもトヨタ生産方式です。きれいに掃除することだって生産方式に寄与しとるんですよ。入門の1年生は、最初はそれから始めればいいんだ」

横着者はカイゼン向き

 カイゼンにまつわる最大の誤解は「労働強化だ」というものだという。効率のみを重視して、労働量を増やしてるのではないか――と。

「ちゃんと説明すれば労働強化ではないことがわかるでしょう。トヨタ生産方式は徹底的にムダをなくす。ひとつの動きのムダも省く。ムダを省いて正味率を上げているだけなのに、世間から見たら、それが労働強化みたいに見える。

 僕たちは一度も作業者に『速く動け』なんて言ったことはないんですよ。コンベアも車が売れるスピードでしか動いていない。むやみに速くするなんてことはないんです」

 そもそも知恵を絞って効率をあげることは、労働者にとっても悪いことではない。

「現場にいて、カイゼンしたり、くふうしたりすると、喜びがある。自分がカイゼンしたことで、反対番(次の直の作業者)が『お前、すごくよくなったぞ』と言ってくれる。やりがいがあるから、また、何かカイゼンしなきゃって思うんだよ。

 自分が発想したこと、自分が考えたことで『お前、なかなかうまいこと考えたな』って言ってもらえるのは何とも嬉しいことなんだよ。オレはおだてに弱い。

 あと、カイゼンが得意なやつって、どちらかと言うと、横着なやつなんだ。

『壁にあるスイッチ、いちいちつけたり消したり面倒だから、リモコンにできないかな』

 そんな風に考えて、楽をしようとするのがカイゼンの第一歩。つらくなるカイゼンなんてないんですよ」

組長の深慮

 河合氏には、カイゼンにまつわる、忘れられない教訓があるという。まだ若い頃、現場の組長に「ここに部品の仮置き台があるといい」と提案をした。仮置き台の図面も描いたうえでの提案だ。

 組長が「わかった」と言うので、その図面をもとにメーカーに台を作ってもらった。ところが、である。

「できあがってきたら、高さが足りなかった。これじゃ、役に立たんなと思った。でも、お金をかけて作ってもらった以上、言いだしにくいから、そのまま使ってたわけです。使いにくいから、困ったけど……」

 しかし、こんな事情を組長はお見通しだった。河合氏のもとに寄って来て組長は「この台はあかん」と言い、さらにこう続けた。

「河合、俺は図面を見た時、失敗することはわかってた。位置も悪いし、高さも低い。でも、お前も失敗してみたら、わかっただろう」

 組長はあえて河合に失敗を経験させたのだ。河合はこう語る。

「トヨタってそういう会社なんですよ。失敗をさせてくれる。僕も管理職になった時、若い衆が言ってきたら、たいていはOKしました。

『河合さん、こういうことやりたい』

 えらい力んで言ってくるんだ。信念を持って言うからね、まあ、いいか、一度やってみろと。金を出して、失敗しても、そいつがわかればそれでいいんですよ。育てるって、そういうことなんですよ。

 現場で教わって、現場で失敗して、現場で育つ。トヨタは現場の会社ですから」

 今年の新入社員もそろそろ配属が決まった頃だろう。河合氏の話から上司が参考にすべき点は多そうである。

デイリー新潮編集部