年金が欲しくて“身内の死”を隠す時代、年金詐取で逮捕される“平均的犯人像”は?

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46年間で5100万円の年金を詐取したケースも

 さらに厚労省は「後期高齢者医療を1年間(2009年7月〜2010年6月)継続して利用していない76歳以上の年金受給者」の調査も行い、この結果も11年2月に発表された。これによると572人が消息不明と判明し、年金の差し止めを行ったという。

 この「後期高齢者医療の利用状況」を活用した調査を、厚労省は10〜11年の期間でも実施。対象者約34万人に「現況申告書」を送付したところ、2239人について「年金受給者の本人は既に死亡している」と遺族などから回答があった。このため厚労省は11年8月に「所在不明高齢者に係る年金の差止めについて」を発表、まずは2171人について年金支払いの差し止めなどを行ったとした。

 調査は続行され、12年9月に発表された「所在不明高齢者に係る年金の差止めについて」では新たに755人の年金を差し止めたと発表があり、これが4回目の広報。

 そして現在のところ最後となっている発表は15年12月の「年金受給者の現況確認の結果と差止め等の状況について」だ。この内容も要約してご紹介しよう。

【1】日本年金機構は住基ネットの情報などから年金受給者の生存確認を行っているが、施設の入居者などは住基ネットの対象外。この場合は「現況届」を提出してもらうことで確認を行っている。

【2】現況届の提出者・約17万人のうち、介護保険の利用などで確認の取れなかった7207人について調査を実施。すると233人の死亡と、89人の行方不明が明らかになった。

【3】この計322人に対しては、年金の順次差し止めを行っている。年金の過払いが判明したケースでは返還手続きを進める。

【4】46年間にわたり約5100万円を支払ったケースもあった。都道府県別では大阪府が48人で最多だった。

 貧困に苦しむ高齢者の実情だけでなく、大金を詐取するという悪質なケースも浮かび上がってきたことが分かる。今も調査は継続しており、年金の差し止めなども随時、行われている。だが15年12月の広報を最後に、厚労省は件数などの発表を行っていない。

 では最新の状況はどうなっているのか。そこで16年の1月から今年の10月まで、全国の都道府県警が「年金詐取で逮捕」と広報し、新聞社が記事にしたものを、データベースを使って集めてみた。すると67人が逮捕されていることが分かった。その内訳を見てみよう。

 まず容疑者の年齢だが、逮捕時の最高齢は82歳。最年少は28歳。世代で最多となったのは60代の29人だった。全体の平均年齢は59.74歳と、当然ながら年齢層の高い容疑者像が浮かぶ。

 性別は女性が17人に対し、男性が50人と3倍近い開きが生じた。詐取を行った年金の受給者は容疑者の実母が37人で最多。続いて実父が18人、夫が3人、義母と養母が2人ずつ、内縁の夫、養父が1人ずつとなった。

 特異なケースもある。以前に介護施設を経営していた男が、男性入所者の死亡を隠蔽して年金を詐取したとして、17年5月に会社役員(62)が福岡県警に逮捕されている。

 さらに元同僚(62)を殺害したとして、無職男(33)が静岡県警に逮捕された事件が2016年に発生したが、その後の捜査で男は元同僚の老齢厚生年金を詐取したとして追起訴が行われている。この男は他に32歳男性も殺害、被害者2人の遺体は浜名湖に遺棄した。今年2月に静岡地裁で死刑判決が下っている。

 職業は無職が最多で44人。アルバイトが7人、会社員が5人と続いた。となると、「60代の無職男性」が「母親」の死を隠蔽し、その年金を騙し取って生活する――というのが、年金詐取事件の平均的な“犯人像”ということになる。

 詐欺の悪質性は様々だ。警察が事件を広報した際、被害額が3桁にのぼるものもあった。代表例は16年、山口県警が360万円の詐取容疑で逮捕した無職男性(72)だ。容疑は氷山の一角に過ぎず、合計で4千万円近い年金をだまし取っていた疑いがあるとの報道が行われた。

 逆に広報された67人の詐取金額のうち、最小額は5万円だ。金額の落差が、容疑者の境遇を映し出すような印象もある。何とも切ない気持ちにさせられる。高齢化社会の闇が指摘されて久しい。長寿を手放しで喜べる時代ではなくなったということなのだろう。

週刊新潮WEB取材班

2018年11月2日掲載

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