年金が欲しくて“身内の死”を隠す時代、年金詐取で逮捕される“平均的犯人像”は?

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映画「万引き家族」でも描かれた犯罪

 中日新聞は10月18日の朝刊に「死体遺棄の妻、年金詐取で再逮捕」の記事を掲載した。8月下旬に愛知県岡崎市のマンションで、無職男性(当時75)の一部白骨化した遺体が発見され、愛知県警が妻(68)を死体遺棄容疑で逮捕していた。

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 さらに県警は調べを進め、10月17日に妻を詐欺容疑で再逮捕した。これが記事の内容だ。妻は夫の年金、約42万6千円を詐取した疑いがあるという。

 最近は「よく聞くニュース」だろう。死者の年金を詐取した事件という報道は常に行われている。現在は一応、好景気だというが、貧富の差は広がるばかりだ。特に年輩の貧困層は親の死を隠し、その年金を詐取しないと生きていけない。

 常に社会的関心の高いニュースでもある。今年5月にカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、6月に公開された「万引き家族」(是枝裕和監督[56]/ギャガ)も、年金の不正受給を重要な場面として描いた。国内で興収30億円を突破するというヒットを果たしたのも、年金詐取に対する広範な関心と無関係ではあるまい。

 この問題の“原点”は、2010年に遡る。朝日新聞が7月29日の夕刊に「30年前に死亡か 自宅から遺体 東京都内の男性最高齢111歳」の記事を掲載したのだ。鮮明なご記憶をお持ちの方も少なくないだろう。記事を引用させていただく。

《戸籍上は111歳で東京都内の男性最高齢者、Aさん【編集部註:実名を匿名に変更し住所を削除、以下同】が約30年前に死亡していた疑いがあることが、警視庁千住署への取材でわかった。足立区から6月、同署に「Aさんが本当に生きているのか確認がとれない」と相談があり、同署員が今月28日午後、自宅でAさんとみられる遺体を発見した。(中略)
 Aさんは1899(明治32)年7月22日生まれ。長女(81)の一家と同居していた。
 千住署などによると、今月26日夕、同署員と区職員らがAさんの長女と孫の女性(53)に自宅への立ち入りを求めた。長女と孫は「おじいちゃんは誰にも会いたくないと言っているので会わせられない。何十年も病気にかかっていません」と説明し、立ち入りを拒んだという。(中略)
 Aさんの妻は2004年に死亡。Aさん名義の銀行口座には、遺族共済年金として同年10月分から今年6月分まで、合計約945万円が入金されていた。口座からは7月に入り、6回にわたり計270万円が引き出されていた。残高は約340万円になっていたという。東京都によると、Aさんは現在も都内の男性で最高齢の扱いになっている。都は国の要請を受け、最高齢者に氏名公表の可否について意向を調べているが、Aさん側からは公表を希望しないとの返事が寄せられていたという》

 今、改めて読んでも、やはり衝撃的だ。この“事件”を契機とし、「高齢者所在不明問題」が浮上する。戸籍上は生きているはずの高齢者が、実際には死亡していたり、行方が分からなくなっていたりするという問題だ。

 もちろん遺族の年金詐取・不正受給問題とも密接にリンクする。さっそく厚生労働省は調査を開始した。現在までに5回の報道発表が行われている。最初に広報されたのは2011年2月、「昨年夏に把握した所在不明高齢者事案に関するその後の状況」だ。内容を要約してご紹介しよう。

【1】全国市町村からの情報提供を元に「100歳以上の所在不明高齢者271人」について調査を実施し、年金が支給されていた25人を訪問した。すると2人の生存を確認したが、23人は確認が取れなかった。そのため年金の差し止めを実施した。

【2】2010年10月、全国市町村から寄せられた追加情報を基に313人を把握。そのうち年金が支払われていた52人に「現況申告書」を送付した。すると1人については「死亡」の回答があったので、年金の支払いを停止する。また「行方不明」と「未回答」の22人についても年金の差し止めを行う。

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