ドラフト1位根尾昂選手はなぜ「自分が小さい」と思ったか 文武両道の秘訣

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 今年のドラフトで一番の注目を集めた大阪桐蔭高校の根尾昂選手。4球団が競合した上で、交渉権は中日ドラゴンズが獲得した。

 根尾選手についてはすでに、「走攻守すべてに秀でた野球選手」としての資質だけでなく、「秀でた人間」としても注目が集まっている。少年時代にはスキーの全国大会で優勝したというスポーツ競技自体の「二刀流」。中学時代の成績がオール5で、生徒会長も務めていたという文武両道ぶりやリーダーとしての資質。
 なかでも注目されているのが、野球選手としては珍しい読書家としての一面を持っていることだろう。

 ドラフトを目前にした10月21日に放映されたNHK夜のスポーツ番組でのインタビューでも、本を巡る談義が展開された。この番組で、最近の根尾選手が手にした本として紹介されたのは、『思考の整理学』(外山滋比古著)、『論語と算盤』(渋沢栄一著)、『中南米野球はなぜ強いのか』(中島大輔著)、『ラテンアメリカ式メジャー直結練習法』(阪長友仁著)の4冊だった。

 報道では、「毎月、父親が選んだ20冊が寮に送られてくる」とされている。確かに『思考の整理学』や『論語と算盤』のような王道の教養書には、医師である父親の選択眼が感じられる。
 しかし、NHKで紹介された残り2冊の「メジャー本」を選んだのは、実は父親ではない。高校入学時から根尾選手を継続取材し、その成長ぶりをずっと追い続けてきたスポーツライターが直接手渡したものだ。

メジャーの資質を感じさせる根尾選手

 根尾選手に本を手渡したスポーツライターとは、今年の8月に『甲子園という病』を出版して、従来の野球界のあり方に一石を投じた氏原英明氏である。

「根尾君に本をあげたのは、去年の11月に大阪桐蔭を取材した時のことでした。コーチから、『根尾は中学時代にアメリカに行ったことがあって、メジャー志向もある』と聞いたんです。メジャーを目指すなら、この本を読むのがいいんじゃないか、と」

 そこには、3年あまりにわたって根尾選手を見てきた氏原氏なりの見立てがある。

「根尾君のバッティングについて、大阪桐蔭の指導者が『(ベネズエラ出身の)ペタジーニ選手見たいやろ』って話をしてくれたことがあります。それを紐解いていて行くと、彼のすごさが見えてきた。スキー競技で培ったものだと思いますが、体幹が強くて、まったく芯がぶれない。腕や下半身でバットを振るのではなく、体幹で反応して身体が動いていく。だから、ミスショットを気にせずにフルスイングができる。中南米選手に似ていると感じるのは、身体の使い方なのかなと思います。根尾選手は日本人選手の中では例外的にそういうスイングができる」

 また、ショートの守備でも平均的な日本人選手とは違った面があると言う。

「日本の野球では、内野守備の際には『腰を落として正面でゴロを捕れ』と指導されます。それを外れたスタイルは、しばしば指導者に矯正されてしまう。
 しかし、根尾選手は『何が最善のプレーなのか』を、常に自分で考えています。しかも体幹が強いので、時には日本ではダメ出しの対象となる片手捕球や逆シングルでゴロをさばくこともあるし、ジャンピングスローやランニングスローも華麗にこなしてみせる。
 メジャーには、素手キャッチ、背面トス、膝をついたままでのノーバンスローなどを意識的に繰り出し、守備だけで人々を熱狂させられるブランドン・フィリップス(現レッドソックス)のような内野手がいますが、日本でそんな選手になれる可能性がいちばん高いのは根尾選手だと思います」

「自分が小さいと思いました」

 氏原氏が著した『甲子園という病』の中でも、「偏差値70超えのスーパースターが誕生する日」と題した第9章で、根尾選手自身が「スキーでは体幹を鍛える練習にかける時間が多いですね」「身体がブレないのがスキーで身に付けた力です」などと、自らのプレーを読み解いて見せている。

「大阪桐蔭は、日本の高校野球チームの中では例外的に勝利のために選手を犠牲にする『甲子園という病』に侵されていないチームです。投手の複数制を徹底し、個々の選手の底上げとチーム力の向上を目指した練習のバランスもとれている。
 しかし、根尾選手とて『一発勝負のトーナメント方式』という、プレーをチマチマさせてしまう日本の高校野球の仕組みの中で野球人生を過ごしてきたことに変わりはない。『もっと高い世界の野球がある』と知れば、彼にとって何かのヒントになるかも知れません」
(氏原氏)

 後日、根尾選手に本の感想を聞いたら、「自分が小さいと思いました」と語っていたという。

「根尾君はスーパーエリートですが、『中南米野球はなぜ強いのか』を読むと、ドミニカやキューバ、ベネズエラの選手たちは、本当に地の底から這い上がってきたということがわかります。彼らは、貧困から抜け出し、メシを食うための手段として野球を選んでいるから必死さが違う。同書には、中南米選手の目利きとして知られる中日の前監督・森繁和さんのインタビューも載っていますから、その意味でも根尾君にこの本を渡したのはよかったかも知れません」(同)

デイリー新潮編集部

2018年10月31日掲載

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