武井咲「ハズキルーペ」CMで復帰の意図 ママ芸能人「第3の道」とは

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 それでいいのか武井咲、と思わず声に出てしまった。そう、彼女が産後復帰作に選んだハズキルーペのCMである。自身の出世作にもなった「黒革の手帖」をモチーフにした仕立てで、小泉孝太郎や舘ひろしまで豪華出演の大作だ。

 どう考えても、和服にあんな斬新なデザインのメガネをかけてくる銀座のママがいたら酔狂がすぎる。しかし酔狂といえば、全編を通して酔狂さが貫かれているのだった。突然サングラスでボトルを差し出す舘。なぜか悔しがる小泉孝太郎の安っぽい演技。菊川怜が前作で見せたルーペ騎乗ハプニングも4連続に増え、酔狂の大盤振る舞いだ。

 もはやコントである。しかも「ここが笑うところですよ」というポイントがわかりやすい、スタッフの笑い声が挿入されるタイプのコント。でも大御所俳優が「あえて」やるから生まれる面白みというのとは少し違う。むしろ、笑っていいのかが判然としないという点で、気まずさを感じてしまうほどだ。

 それは今だかつて、産後復帰作にこの手の仕事を選ぶ女優はいなかったように思うからである。特に主演ドラマを何本も持つ人気女優の復帰は、もっと華々しいものではなかったか。たとえば杏は主演映画のプレミア出演、榮倉奈々はadidasのスチール撮影、上戸彩は「M-1グランプリ」の司会だった。自身のイメージを大きく変えることのない、安全で安心な仕事。世間に自分のことを思い出してもらう、大一番の舞台だ。

 しかしハズキルーペは良くも悪くも後味が濃すぎる。正統派のタレントがあえて三枚目をやるギャップによって好感度を上げる、というステレオタイプの打算も感じない。むしろ感じたのは、彼女はもう、芸能界にこだわっていないのかも、という感慨深さである。

 今はママ芸能人の戦国時代だ。大きくは2つの道がある。ひとつは、いわゆる“ママタレ”。子育てに悩みながらも懸命に取り組む、等身大で頑張り屋のお母さん。忙しくてもお弁当作りを欠かさず、子どもの行事に積極的に関わる。その芸能人らしからぬ「普通」の意識や経験を武器に、世間にもの申すコメンテーター役である。一方で、母親なのにいつまでも美しい女性、として生きる女優道もある。上戸彩が出産後に出演した「昼顔」しかり、生活感より女性らしさを全面に出す仕事の選び方。しかし武井は、今のところそのどちらのラインにも行かないことを決めたように思える。というか、そんな世間の求める型を演じてまで未練はないし、といった風情だ。もちろん夫であるEXILEのTAKAHIROと稼ぎを合わせれば、経済面での不安は全くないだろう。でもハズキルーペのCMの画面からは、わたし芸能界には大してこだわり無いので、という開き直った宣戦布告という印象さえ感じたのである。

近年の若手女優たちに見られるワークライフバランス志向

 わたしが武井を初めて見た時から気になっていたのは、声が変だなということだ。子どもっぽい高い声で、ときどき裏返るような時がある。若い時はそれでも、直情型のヒロイン役とかならまだいいのかも、と思っていた。しかし年を重ねるにつれ、それこそ「黒革の手帖」のようなしたたかな大人の女を演じる際、あの声はさすがに致命的だ。ドラマでは彼女の美しさが際立ち、あまり悪目立ちしなかったが、ハズキルーペのCMで改めて気になった。「ルビーカラー」と言うシーンとか。

 そうなると女優として役は限られるのではないか。無論おせっかいということは重々承知である。ただ声の質が大きく左右しないような、ママタレの道を選ぶこともしたくないのだろう。同じような印象は、先日出産した佐々木希や、新婚の桐谷美玲があっけないほど仕事を減らした時も感じた。ちやほやされていた自分たちの席には、いずれ同じような若い女性が座るだろうし、という冷めたまなざし。近頃ではYouTuberなども台頭し、有名人のすそ野は広がった。他方、SNSによる炎上騒ぎやプライベートの暴露も増え、人気芸能人ならではの有名税、と受け流せなくなってきたことも冷静にとらえているのだろう。

 窮屈な芸能界で、やりたくないことをやってしがみつくより、好きな人と自由に過ごす時間を増やしたい。人気よりワークライフバランスを重んじる人たち。それは普通の会社員でも、出世や年収よりプライベートを重視する若者が増えている、という傾向にも重なる。

 かくして武井は第3の道を進む。自身の声や女優としてのステータスに悩むことなく、マイペースさを第一に、のびのびと。もっとも、彼女のようなキンキンした声は、小うるさい姑役などでは重宝されるかもしれない。ちいさすぎて読めなああい!!と世界のケン・ワタナベばりに絶叫する、老眼鏡をかけた姑役。この先いつか、今度こそコントでやってくれたらいいな、とつくづく思う。

(冨士海ネコ)

2018年10月5日掲載

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