アルツハイマー型認知症は「脳の糖尿病」だった 治療の最前線

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根本治療が見えてきた「アルツハイマー」(1/2)

 人の名前が出てこない度に心配になるが、健康診断で発症リスクが分かるわけではない。アルツハイマー型認知症は身近なようで身近でない病だ。9月21日は「世界アルツハイマーデー」。今、治療の最前線では何が起こっているのか。そこにこそ自衛のヒントがある。

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 認知症を扱った有吉佐和子の小説『恍惚の人』には、こんな場面がある。

〈痴呆。幻覚。徘徊。人格欠損。ネタキリ。/茂造は部屋の隅で躰を縮め、虚ろに宙を眺めている。人生の行くてには、こういう絶望が待ちかまえているのか。昭子は茫然としながら薄気味の悪い思いで、改めて舅を見詰めた〉

 1972年にこの小説が世に出てから46年。あらゆることを忘れてしまい、自分で自分がコントロールできなくなってしまう哀しさ。それを支える周囲の人の苦労は今も昔も変わらない。しかし、認知症そのものを巡る状況はこの46年間で大きく変化した。そもそも、『恍惚の人』には、医療行為によって〈痴呆〉の進行を遅らせようとする場面は出てこない。無論、現在は検査によって脳の状態を詳しく調べた上で、投薬治療など、様々な医療行為が施されることになる。果たして、その最前線では何が起こっているのか――。

 2025年には患者数が700万人を超えると言われている認知症には、脳血管性認知症やレビー小体型認知症などもあるが、全体の8割を占めるのが、アルツハイマー型認知症だ。

「おくむらクリニック」院長で『ねころんで読める認知症診療』の著者・奥村歩氏が言う。

「たんぱく質の老廃物であるアミロイドβが脳内に溜まることによって起こる認知症をアルツハイマー型認知症と言います。1906年、ドイツのアルツハイマー博士が世界で最初に報告したのでその名が付けられました」

 実は、アルツハイマーの発症メカニズムはいまだ解明されていない。

「脳は極めて複雑な部位なので、なかなか他の病気のように創薬や治療が上手くいかない。今使われているアルツハイマーの薬は、脳の残った神経細胞の働きを応援してあげるような種類のものばかりです」(同)

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