吉澤ひとみ逮捕に思う アイドル優等生という苦悩

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 吉澤ひとみ逮捕。かつてモーニング娘。を生んだ番組「ASAYAN」をリアルタイムで見ていた身として、大変ショックを受けた。犯した罪は重く、許されるものではない。酒癖の悪さも暴かれているが、だからといって飲酒運転をするかどうかは別の話であり、本人も申し開きできないだろう。

 昔の話になるが、彼女が石川梨華らとモーニング娘。の第4期メンバーに合格した時、なんてかわいい子だろうと思った。そのかわいさの中には、アクの強さがなかったというのも大きい。あの大所帯の中で、誰もが前へ出ようとギラギラしている中、吉澤には他のメンバーほど野心がないように見えた。なんというか、これで合っているのかな、と迷っているような目をする時があったのだ。その気になればセンターポジションになるルックスなのに、意外とリードボーカル曲は少ない。かといってキャラで爪跡を残すタイプとも違う。それでも淡々とパフォーマンスし続ける彼女の姿に、当時私は好感を持っていた。

 今回の事件でふと頭をよぎったのは、彼女のその淡白さである。プロ意識の欠如、と言われているが、どんなことをしてもプロとして生き残ってやる、という気概そのものが薄かったのではないか。同じモーニング娘。OGである中澤裕子や保田圭と比べて思う。郷里でもない場所に移住し、いまや「福岡の女帝」と呼ばれるほどの活躍を見せる中澤や、アイドル時代もお笑いキャラに殉じ、最近は子育てブログでも注目を集める保田は、「何が何でも売れてやる」を第一に行動してきた女たちのはずだ。また吉澤と同時期に加入した辻希美は炎上ブログと言われながらも、更新をやめない。矢口真理に至っては、不貞をネタにしても芸能界にしがみつこうとしている。そんな他メンバーたちのハングリーさに比べると、吉澤の影は薄い。もちろん、あの黄金期を支えたのだからガッツはある人だろう。しかし、あんなに恵まれた容姿や運動神経を、売れるために使い尽くしてやる、というしたたかさをもっと彼女が持っていたら。おそらくこんな軽率な事故は起こさなかったのではないか。そして息の長いエースアイドルになれたのではと思うのは、買いかぶりが過ぎるだろうか。

「劣等生」アイドル内の優等生の苦悩

 うさぎと亀の童話のように、才能は及ばずとも努力を重ねた者が最後に勝つ。そんなことは今、なかなか信じにくい時代になっている。

 でもかつてのモーニング娘。は、まるでその亀のようなアイドルだったと思う。劣等生だらけだったけれど、だからこそ努力する姿が愛された。もともとオーディションで落選したメンバーで始まったという出自も含め、中澤は年増扱い、保田はブスキャラ、辻・加護は騒がしい小学生だった。不倫した矢口は当時も男性問題で脱退しており、尻軽な印象がぬぐえない。そんなアイドルとして「欠けている」女性たちが、あの手この手で長く生き抜いてきた。指原莉乃や須田亜香里など、変化球タイプのアイドルが人気になる礎を作ったのは、モーニング娘。の影響も大きいと思う。もちろん今でもモーニング娘。'18として年若いメンバーたちも頑張っているが、爪跡の強さで思い出すのは、あの頃のメンバーたちである。

 ちなみにプロデューサーであるつんく♂は、吉澤を採用した理由について、「モーニング娘。にいないキャラだったから。あんまりわーっとはしゃぐことがない人生だったのでは。できるできる、で来たのかもしれない」と語っていた。それに呼応するかのように、吉澤は合格直後の合宿にて、「今までは焦っても間に合っちゃうことが多かったけど、焦りというものを初めて体感した」と言っている。

 つんく♂が評した通り、容姿も含めて何でもできる優等生だった吉澤は、体当たりでぶつかる劣等生たちのパワーの中で戸惑い続けていたのかもしれない。後藤真希のような天才肌とまではいかないし、でも即戦力にならないといけないプレッシャーもあったろう。ケレン味ある歌詞や歌い方になじむのも難しい。好きな仕事に飛びこんだのに、うまく力を発揮できないもどかしさ。それは、これまで“できるできる”優等生だったからこそ、より強く生じる苦悩だったのではないか。「売れたいから何でもやってやる」という腹のくくり方が希薄に見えたのも、そんな迷いがあってのことかもしれない。

 罪を償ったあと、彼女が芸能界に復帰するつもりかどうかはわからない。大罪を犯しても出戻った酒井法子のようなふてぶてしさもないと信じたい。いずれにせよ、今度こそ本当の優等生として正しい道を歩んでほしいと切に願う。

(冨士海ネコ)

2018年9月14日掲載

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