死角なし「吉田輝星」は疲れも跳ね返せるか(石田純一)

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石田純一の「これだけ言わせて!」 第1回

 息子の理汰郎は野球に夢中で、この夏も甲子園の球児たちに盛んに声援を送った。ご多分に漏れず、贔屓のチームは金足農業。準々決勝、2ランスクイズで近江に勝ったときなど大よろこびだった。でも僕は、金足農業には早く負けてほしかった。いや、「もう十分だ!」「負けてくれ!」と不思議な応援をしていたと言うべきか。吉田輝星投手の肩を思うと、早く負けて休んでほしかったのだ。

 結局、彼が甲子園で投げた球数は881球。早稲田実業の斎藤佑樹に次ぐ歴代2位になってしまった。ちなみに横浜高校の松坂大輔は歴代7位の767球。短期間に投げすぎた球児のなかで、それなりの成績を残したのは松坂くらいで、200勝を挙げたような投手はこれまで絶無なのだ。

 選手たちが勝利を目指し、一丸となってプレーする姿にケチをつける気はないけれど、エース一人にそれだけの重荷を背負わせていいものかどうか。決勝戦で登板した4番の打川君が、あんなにいい球を投げるなら、もう少し彼に任せてもよかったのではないか。

 吉田君、あきらかな逸材である。150キロの速球を投げるだけなら、彼以外にもいる。だが、大事なのは球速以上に球威なのだ。吉田君の150キロの球はもちろん、135キロほどの直球でも異様なほど伸びて、圧倒的な威力がある。

 松坂大輔がそうだった。西武ライオンズの監督として、ドラフト会議で彼を引き当てたのは、ほかならぬ僕の義理のパパ、 東尾修だが、キャンプで松坂を見てたまげたそうだ。彼が投げる球はキャッチャーの手元に「パーン」ではなく「ズドーン」と届く。大砲でミットを射抜くような威力だったという。

 実は東尾パパは、吉田君は松坂ほどではないという主張だ。一方、高校時代は4番でピッチャーだった僕は、その点は東尾パパに反対で、「賭けるか?」なんて言い争っている。東尾パパも、吉田君を「クレバーな投手」と認めるが、「でも投げすぎだし、完成しているんじゃないか」という。すなわち、松坂よりも「桑田型」だと言うのだが、桑田で十分ではないか。

 僕も吉田君の賢さを評価する。彼は手抜きができる投手だ。走者がいないと軽く投げ、走者が2塁、3塁に進むとギアを上げて、球威のある剛球をビューンと投げ込む。それができるから、球数のわりには消耗していない、と期待もする。

 運動神経も頭脳も抜群。剛球なのにコントロールもいい。実に死角がない投手。普段からバスケットボールのフリースローの練習、ソフトボールの逆回転の練習を取り入れ、肩甲骨の可動域を広げていて、だから体全体で投げることができ、肩への負担が少なくて済むのだ。これは今後の球児には、大いに参考になるだろう。

 甲子園ではこんな場面もあった、打者のバントが小フライになったのを取るふりをして落とし、ゲッツーにしたのだ。大舞台で、しかも接戦で、誰もが一つでもアウトを取りたいときに、こうして冷静に処理できるのは、ただ者ではない。

 そんな吉田君も大阪桐蔭にはやられてしまった。疲労もあったと思うが、配球を読まれたのが大きい。大阪桐蔭は007顔負けの情報戦により、吉田君はギアを上げると外角低めに直球を投げる等々、すっかりつかんでいた。あれだけ疲れていれば、その裏をかく余裕はなかっただろうが、それで吉田君の価値が下がるものではない。

 彼の賢さがこの夏の“重荷”をどれだけ軽くできているか、見守りたい。

石田純一(いしだ・じゅんいち)
1954年生まれ。東京都出身。ドラマ・バラエティを中心に幅広く活動中。妻でプロゴルファーの東尾理子さんとの間には、12年に誕生した理汰郎くんと2人の女児がいる。元プロ野球選手の東尾修さんは義父にあたる。

2018年9月1日掲載

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