年総額600億円超!「医師」へのカネ払いが多い「製薬企業」の特徴

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 前回(2018年7月10日「製薬企業から謝礼金『270億円』もらう医師の『本音』」)、製薬企業から内科教授を中心とした医師に、講師謝金の名目で巨額の金銭が流れていることを紹介した。今回は製薬企業サイドの分析だ。どんな製薬企業が、どのような目的で医師にカネを払っているのだろうか。

 今回ご紹介するデータも、NPO法人「医療ガバナンス研究所」と調査報道メディア『ワセダクロニクル』による共同調査の結果である。

 結論から言うと、医師にカネを払うのは、海外で売れる商品が少ない製薬企業だ。彼らは生き残りのためには手段を選ばない。

国内市場のパイの奪い合い

 少子高齢化により社会保障費負担が増大するわが国では、薬価の切り下げが続いている。今春の診療報酬改訂でも薬価は1.65%引き下げられている。2017年の医薬品市場は10兆5149億円で、前年度から1%の減少だった。わが国は、医薬品市場が縮小している唯一の先進国だ。

 製薬企業が生き残るためには、市場規模が大きい米国、あるいは急成長中の中国に進出しなければならない。製薬企業の生き残りは、海外で売れる薬の確保にかかっていると言っても過言ではない。そのためには巨額の借金も辞さない。

 代表例が武田薬品工業だ。2017年度、武田薬品の売り上げは米国34%、日本33%、新興国16%、欧州プラスカナダが18%だったが、アイルランドの製薬企業シャイアーを買収したため、統合後は米国での売上が48%、日本が19%、日米以外が33%になると予想されている。

 武田薬品のように、自社開発するにせよ、他社を買収するにせよ、海外で売れる医薬品がなければ、縮小する国内市場のパイを奪い合うしかない。そのためには医師にカネを渡すことも厭わないというわけだ。

「医者」に年間633億円

 製薬企業から医師にカネを渡す方法は幾つもあるが、今回の調査対象は講演料・原稿料・コンサルタント料など医師個人に支払われるものと、学術研究を助成するために大学などに支払われるものだ。日本製薬工業協会は前者を「C項目」、後者を「B項目」と呼んでいる。

 我々の調査では、2016年度に国内の製薬企業が支出した「C項目」の総額は257億円、「B項目」の総額は376億円だった。

 製薬企業の売り上げ1億円あたりのC項目の金額を図1に示す。大手製薬企業で多いのは小野薬品工業、協和発酵キリン、大塚ホールディングス、第一三共、田辺三菱製薬などだ。逆に、大手製薬企業で少ないのはアステラス製薬、武田薬品、さらにグラクソ・スミスクライン(GSK)だ。

 余談だが、GSKが少ないのには理由がある。同社は2013年から中国を皮切りにポーランド、イラク、ヨルダン、レバノン、シリアで医師や政府高官に対して現金や講演料、あるいは接待という形で贈賄を行っていたことが発覚。中国では2014年9月に贈賄罪が確定し、GSK中国法人へ30億元(当時の約530億円)の罰金が、同社幹部には執行猶予つきの懲役2~3年が言い渡された。GSKは、この事件を契機に医師への支払をやめた。また、それまでMR(メディカル・レプリゼンタティブ、営業担当者)の給与を医師の処方数と連動させていた制度を全世界で廃止した。

外資が手を出さない「奨学寄附金」

 話を戻そう。次いでB項目だ。結果を図2に示す。上位には内資系製薬企業が名を連ねる。大手製薬企業では、小野薬品、塩野義製薬、エーザイ、協和発酵キリンが上位にいる。外資系企業はもっぱら下位だ。どうして、外資系企業はB項目を渋るのだろう。

 注目すべきは、B項目の59%を占める奨学寄附金の存在だ。これは日本固有の制度と言っていい。

製薬企業が大学に奨学寄附するとき、製薬企業は寄附したい医師や講座を大学に伝える。大学は間接経費として2~3割程度を抜き、残りを指名された医師や講座が使えるようにする。

 奨学寄附と言うと、もっぱら研究に使われると思う方が多いだろうが、実態は違う。飲食に使っても構わない使い勝手のいいカネだ。

 海外には奨学寄附金に相当する概念が存在しない。このため、外資系企業は奨学寄附金という制度をあまり使わない。知人の製薬企業社員は「本社の理解が得られません」と言う。ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)のように一切支払っていない企業も存在する。

 だからと言って、外資系企業が寄附金を支払わない訳では勿論ない。彼らが寄附をするときは、基金やNPOを使うのだ。第三者組織を使えば、製薬企業と医師の関係を隠すことができるからだ。

「バイアス」より「処方」

 スイスの大手製薬企業ロシュの子会社である中外製薬が、戸井雅和・京都大学教授や大野真司・がん研有明病院副院長らが運営する乳がんの研究グループ(一般社団法人JBCRG)にカネを入れる際、NPO「先端医療研究支援機構」(ACRO)という組織を介していたことが明らかになっている。また戸井教授たちは、中外製薬が販売する医薬品を用いた臨床研究を論文発表する際に、中外製薬との利益相反に言及しなかった(2017年12月5日「まったく変わらぬ『医師』『製薬企業』『官僚』癒着の実態を告発する」参照)。これでは、製薬企業が支援した研究なのに、独立した第三者が行ったような印象を与えてしまう。著しく不適切と言っていい。

 実は、製薬企業が医師にカネを払うのは、研究結果にバイアスを与えたいからだけではない。むしろ大部分は、カネと引き換えに医師に処方を促すためだ。

 情けないことだが、この方法は有効だ。2016年8月にカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者たちは、20ドル以下の弁当でも、製薬企業からの提供を受け取った医師は、その製薬企業が販売する医薬品を処方する傾向があった、という研究成果を報告している。

 前回もご紹介したように、一部の医学部教授は製薬企業から年間に1000万円以上の講師謝金などを受け取っている。奨学寄附金の相場は最低100万円だ。処方に影響しないと考える方がおかしい。

 私も東京大学病院に勤務していた時代、先輩医師から「研究費を貰っているので、この会社の薬を使ってください」と何度も言われたことがある。今も状況は変わらないだろう。

「オプジーボ」にライバル登場

 では、カネを多く使う企業は、どんな事情を抱えているのだろうか。C項目、B項目のいずれでも上位にランキングしていた小野薬品工業をケースに議論しよう。

 小野薬品は大阪市に本拠を置く大手製薬企業だ。1717(享保2)年、初代伏見屋市兵衛が道修町で創業した。「タフマック」などの一般用医薬品も販売しており、認知度は高い。医療用医薬品では気管支喘息治療薬「オノン」や全身炎症反応症候群に伴う肺障害治療薬「エラスポール」などの「通好み」の医薬品を販売する企業として知られていた。

 小野薬品の運命を変えたのは、がん免疫治療薬「オプジーボ」の開発に成功し、2014年9月に悪性黒色種を対象に販売を開始したことだ。オプジーボは画期的な医薬品で、2013年に米国科学誌『サイエンス』の「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。開発者の本庶佑・京都大学特別教授はノーベル生理学・医学賞の有力候補である。

 販売の結果、オプジーボは多くの医師から絶大な評価を受け、多くの患者に投与された。2016年度には国内で1039億円を、全世界では37.7億ドルを売り上げ、医薬品の中で18位にランクイン。前年度からの伸び率は301%に上り、医薬品の中でトップだった。

 だが、医薬品市場はメガファーマ(巨大製薬企業)が激しい競争を繰り広げる。小野薬品にもライバルが現れ、米国の老舗製薬企業メルクが「キイトルーダ」というがん免疫治療薬を開発した。一方、小野薬品は海外での開発や販売をBMSに委ねているため、小野・BMS連合とメルクとの間で、切除不能な進行・再発の小細胞肺がんの初回治療薬としての開発競争が起きた。

 新規の抗がん剤は、通常、既存の抗がん剤が効かなかった患者を対象に開発される。予後不良な患者を対象にするため、承認条件も甘くなる。製薬企業は、この設定で抗がん剤が承認されれば、次に初回治療での開発に取り組む。初回治療で承認されれば、対象患者は一気に増え、大きな売上が期待できるというわけだ。

 治験を成功させるためには、薬の「実力」も重要だが、開発を担当する製薬企業の組織力も影響する。それは、どのような患者を登録するかで、成功率に大きな差が出るからだ。一般的に、薬の副作用に耐えられる、若くて合併症のない患者の方が効果は出やすい。かつて筆者が国立がん研究センター中央病院に勤務していたときは、「臨床試験を成功させたければ、がんを抱えたオリンピック選手のような人を登録せよ」と指導されたくらいだ。

双方にとってありがたいシステム

 小野薬品・BMS連合とメルクは、「元気な肺がん患者」を治験にリクルートすべく競争した。結果はメルクの勝利だった。キイトルーダの臨床試験では有効性が確認されたが、オプジーボの臨床試験は失敗した。

 キイトルーダの添付文書には、その効能として「PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」と記されているが、オプジーボのものには、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌の場合、化学療法未治療患者における本剤の有効性及び安全性は確立していない」とある。

 形勢は逆転しつつある。2017年10~12月期の全世界での売上は、オプジーボは約1600億円で先行するが、キイトルーダは約1400億円と迫っている。

 わが国でも、キイトルーダは2017年2月に販売が開始され、このまま何もしなければ、メルク(日本は子会社のMSD)に市場を奪われる。

 小野薬品の弱点は、海外での販売をBMSが担当するため、99%を国内で売り上げるところにある。国内では、販売当初100ミリグラムバイアル瓶で73万円だった薬価は、17年2月に半額の36万5000円に切り下げられ、その結果、同年度の売上は901億円と、前年度の1039億円から138億円も低下。さらに、今年4月には薬価が28万円に改定された。

 小野薬品は基礎特許をもっているため、当面、BMSとメルクからロイヤルティ収入が入ってくる。ただ、メルクに市場を奪われたうえに薬価も下がる。小野薬品が置かれた状況は世間が考えているほど甘くない。彼らも必死だ。売上を増やすには、1人でも多くの医師に処方して貰わねばならず、そのためには、有力医師に講演して貰い、医局には奨学寄附金を入れなければならない。医師、製薬企業の双方にとってありがたいシステムなのだ。割を食うのは国民だが、製薬企業の広告に依存するマスコミは黙りを決めこむ。この結果、問題が社会で認識されることは、ほとんどない。

 医師と製薬企業の癒着は根深い。この問題を解決するには、『ワセダクロニクル』と我々がやっているように、正確な情報を社会に提示し、オープンに議論するしかない。製薬企業の前に我々は蟷螂の斧のような存在だが、できることからやっていきたいと考えている。是非、御支援をお願いしたい。

上昌広
特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長。
1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。『復興は現場から動き出す 』(東洋経済新報社)、『日本の医療 崩壊を招いた構造と再生への提言 』(蕗書房 )、『日本の医療格差は9倍 医師不足の真実』(光文社新書)、『医療詐欺 「先端医療」と「新薬」は、まず疑うのが正しい』(講談社+α新書)、『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日 』(朝日新聞出版)など著書多数。

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Foresight 2018年8月15日掲載

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