“護衛艦風呂”に食糧供給で輸送艦も出動…西日本豪雨で呉市の海上自衛隊が大活躍

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呉市が持つ歴史が災害支援を後押し

 元海将で海上自衛隊呉地方総監も務めた伊藤俊幸氏は「深刻な災害に襲われた被災地に、呉地方隊が少しでも寄与できたようです」とする。

「帝国海軍は1872年に誕生しましたが、呉は軍港として発展しました。そして1945年に敗戦を迎えますが、呉市の復興には新設された海上自衛隊も色々な意味で関わってきました。実は私が呉地方総監を務めていた際も、海自艦艇のカレーレシピを公開することで、市の観光課と協力し『呉海自カレー』というご当地グルメを育成したことがあります。今ではレトルト化もされて日本全国で食べられる ほどになりました。このように、歴史的に市民の皆さんと海自の距離が近いことも、今回の災害支援を様々な形で表現していただいていることに繋がっているのだと思います」

 被災者の救助には呉地方隊の救助犬も現場に派遣され、これもニュースとして報じられた。

「呉地方隊には呉造修補給所貯油所という施設があるのですが、ここは約32万平方メートルの敷地があり、隊員のパトロールや防犯カメラだけではカバーしきれません。そのために昔から警備犬を配置しているのですが、2008年から救助犬としての訓練も行うようになりました。犬にとって、施設への侵入者を撃退する行動と、ガレキの下などから被災者を発見する行動は、本質的には矛盾するものです。特に、匂いと音から人間の生体反応を自律的に見つけだし、その場所を人に伝えるという救助犬の行動は、極めて高度な訓練が必要なのです。しかし、長年の訓練の結果、呉地方隊の犬は、首輪を替えることで、警備犬から救助犬にスイッチすることができるようになっています。先輩たちの地道な努力の積み重ねが今に繋がっているのです」(伊藤氏)

 戦争とは非常事態に他ならない。呉の海上自衛隊は、物資も人的資源も、そして対応ノウハウも蓄積してきた。こうした歴史が、災害支援に実力を発揮したというわけだ。ちなみに、隊員自身が被災しているケースも少なくないというが、その対応策も事前に策定されていたという。

「父親が隊員の場合、災害支援にかかりきりとなります。帰宅することも難しい日々です。被災した自宅に妻や子供たちだけが残るのは、二次災害を引き起こすリスクがあります。そのために呉地方隊では、隊員の家族を基地に向かい入れ、家族支援をします。保育園を開設するなど、女性隊員を中心に配置して対応しますし、そのための訓練も普段からしています」(伊藤氏)

 東日本大震災で発生した東京電力福島第一原子力発電所事故では、国や国会、民間の事故調査委員会が設置された 。その報告書では、現場が綱渡りの奇跡的な尽力を続ける一方、政府を頂点とする国家中枢は迷走していたとの指摘が数多く見られた。

 今回の西日本豪雨でも、既視感を覚える場面が少なからずある。被災地からも憤りの声が上がりつつあるが、陸自も空自も含め、黙々と支援を遂行する自衛隊員が尊敬と称賛を集めている。

週刊新潮WEB取材班

2018年7月24日掲載

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