ハチミツ二郎さん緊急入院で学んでおきたい「心不全」の基礎知識

芸能2018年7月19日掲載

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そもそも心不全って?

 17日、お笑いコンビ、東京ダイナマイトのハチミツ二郎さんが急性心不全で緊急入院したと伝えられた。

 緊急搬送される前の3日間、40度の高熱を押して仕事をしたために肺炎となり、そこからさらに急性心不全となったという。
 

 一時期は生命が危ぶまれるほどだったが、現在は回復に向かっているようで、本人のツイッターも更新されている。とりあえずは家族や周囲、ファンも一安心だが、命にかかわる病気だけに、油断は禁物だろう。
一般の人がこうしたニュースをきっかけにして、病気について学んでおくのは意義があることといえる。そもそも「心不全」という言葉はよく聞くが、実際にどういうものかは意外と理解が進んでいない。「急性心不全」は「心不全」の一種で、他に「慢性心不全」もあるのだが、これに加えて何らかの事情で死因を明確にしたくないときなどにも、使われてしまうこともあるものだから余計にややこしい。
 この分野の専門家である古川哲史・東京医科歯科大学教授の著書『血圧と心臓が気になる人のための本』から、「そもそも心不全ってなに?」という人でも知っておいたほうがいい基礎知識をご紹介しておこう。(以下は同書より抜粋・引用。なお、誤解のないように強調しておくが、以下に紹介するのは、あくまでも一般的な基礎知識であって、ハチミツ二郞さん個人の病状の解説ではない)。

――「心不全」とはどういう病気ですか?
「『心不全』とは、1つの病気というよりは、高血圧や心筋梗塞など様々な原因で心臓が十分な機能を果たせなくなった状態を指します」

――「心不全」はどのくらい怖いのでしょうか?
「一度患者さんに『心不全の治療をしましょう』とお話ししたところ、いきなり『私はもうすぐ死ぬんですか?』と聞かれてぎょっとしたことがあります。これは、患者さんにとっては、『心不全=死因』というイメージが強いためなのでしょう。
 確かに、厚生労働省が毎年発表している人口統計では、心臓病は悪性新生物に次いで何年も不動の第2位を占めています。死因第1位の悪性新生物(がん)は、一生の間に日本人の2人に1人が罹患し、約3人に1人が亡くなります。死因第2位の心臓病も、約7人に1人が亡くなります」

――ということは、がんよりは危なくない?
「診断がついてから、あるいはある治療を始めてから、5年後に生存している人の割合を『5年生存率』と呼んで、しばしば病気の重症度や治療の有効性を比較するのに使われます。
 がんにも、5年生存率の良いがんと悪いがんがありますが、すべてをひとまとめにして平均をとると、がんと診断されてからの5年生存率は今では50%を超えています。
 一方、心不全は心不全と診断されてからの5年生存率は50%を割っています。
 心不全で入院した人の5年生存率はさらに低く25%程度です。
 生存率という観点だけからみると、がんよりも心不全のほうが若干たちが悪いのです。
 これは、心不全は完全に治るということはないのに対して、がんは早期に発見して手術で完全にとり除くことができると、完全に治るので、このような5年生存率の違いになるのではないかと思われます」

早期発見が重要

――それでは心不全と診断されたら絶望的じゃないですか?
「お医者さんは心不全の人を早めに発見・診断し、早目に治療を始めて、入院にまで至らないようにすることが非常に重要だと考えています。
 早期発見・早期治療というとがんの専売特許のように思われがちですが、心不全でも早期発見・早期治療がとても重要なのです。したがって、お医者さんから『あなたは心不全ですよ』といわれても、ごく初期の心不全であって、死の影すらちらついていないのがほとんどです。
 心不全の治療の方針をたてるために、重症度に応じて4つのグループ(1~4度)に分け、それぞれのグループで異なった治療方針をたてます。従来の分類では、一番軽症のグループ(1度)は、心不全はあるけれども症状がないものを指しています。
 心不全治療のガイドラインでは、この1度、すなわち症状がない段階のごく早期から心不全の治療を始めることを薦めています」

――症状がないのに早期発見なんてできるのでしょうか?
「心不全の早期発見の取り組みは、進んでいないどころか、従来はみんなに行っていた心電図検査が、数年前から特定健診では一般検査項目から外れ、一部の人だけに行われるようになり、早期発見に逆行する流れにさえあります。
(重症度が)1度の心不全の人は、たまたま別の病気、例えば高血圧や高コレストロール血症があったために、検査した結果、心不全もみつかったという患者さんがほとんどです。
 がんよりも5年後に生きている人が少ない心不全で、早期発見がおろそかにされ『たまたま』みつかることに頼っているというのは困った状況です。
 もちろん厚生労働省でも、これをただ放置しているわけではありません。心不全の早期発見の対策が遅れている住民健診の中で、早期治療を可能にするために新しい重症度の分類法が取り入れられています。
 この新しい分類も従来の分類と同じように4つに分類するのですが、最も軽いグループ(こちらは「ステージ1」といいます)は以前よりも前倒しになっており、心不全になる前のリスク因子が存在するだけで心不全のステージ1に分類します」

――リスク因子とは何ですか?
「リスク因子とは、高血圧がある、肥満がある、高脂血症がある、血糖が高い、など心不全に関与することが証明されている因子のことです。
 これらはいずれも、住民健診で十分見つけることができる項目です。
 心不全治療のガイドラインでは、このステージ1の段階から、すなわち心不全になる前の段階から、心不全に対する治療を始めることが推奨されています。
 心不全になる前から心不全の治療をするのはやりすぎなのでは、との意見もあるかもしれませんが、心不全という診断がつくと5年生存率が50%を切ってしまうので、心不全になる前から手を打とうという考えは、必ずしも荒唐無稽な考えではないのです。
 ところが、このような状況が良く周知されていないので、検診などで高血圧・高脂血症などを指摘されて、外来に来られる患者さんに、降圧薬やコレストロール低下薬だけでなく、いきなり『心不全の治療薬を出しておきますね』というと、『ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください、先生。私は心不全なんですか?』ということになるのです」

 実は心疾患にかかる人は、がんよりも若干多く、一生のうちに2人に1人か、もう少し多くの人がかかるともいう。それだけにいざという時に慌てないよう、最低限のことは知っておいたほうがいいだろう。

デイリー新潮編集部