製薬企業から謝礼金「270億円」もらう医師の「本音」

ライフ Foresight 2018年7月10日掲載

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 私が主宰する「医療ガバナンス研究所」と調査報道メディア『ワセダクロニクル』は、製薬企業から医師に渡っている金銭について共同調査を行っている。

 昨年9月にスタートし、製薬企業の業界団体である「日本製薬工業協会(以下、製薬協)」に加盟する71社が、2016年度に医師個人へ支払った講師謝金、コンサルタント料、原稿料(製薬業界では、このような費用を「C項目」と呼ぶ)を集計、分析中だ。

 中心となって調査を進めているのは、『ワセダクロニクル』の渡辺周編集長と「医療ガバナンス研究所」のスタッフである尾崎章彦医師。2人とも製薬企業とは浅からぬ因縁がある。

製薬企業の抗議に屈した朝日新聞

 渡辺氏はもともと朝日新聞の記者だった。2015年4月1日、朝日新聞は朝刊1面トップに「医師に謝礼、1000万円超184人 製薬会社、講演料など 13年度分、朝日新聞集計」という記事を掲載した。ご記憶の方も多いだろう。この調査報道をリードしたのが渡辺氏だ。

 翌2日には「公表、医師抵抗で1年遅れ 製薬会社からの講演・原稿料 印刷できず閲覧期間制限」という続報を出したが、記事が掲載されたのは、ここまでだった。

 当時、製薬協の職員をしていた私の知人は、「製薬企業が朝日新聞に抗議し、広告を引き上げるとちらつかせたのです」と言う。

 製薬企業は多方面に圧力をかけたようだ。翌年11月には、1972年4月に創刊した『メディカル朝日』が休刊。当時、私は同誌に連載コーナーを持っていたが、担当者は「休刊の理由は、先生のご想像の通りです」と説明した。

 渡辺氏は地震取材の担当に異動となり、謝礼報道の1年後に朝日新聞を去った。『ワセダクロニクル』は、そんな彼が立ち上げた特定非営利活動法人の調査報道メディアである。

健康保険の「不正請求」と利益相反

 一方の尾崎医師は、乳がんを専門とする外科医だ。福岡県の明治学園から東京大学医学部へ進学し、学生時代から私は彼を指導してきた。

 臨床研究への造詣も深く、がん研有明病院の大野真司副院長が代表理事を務める一般社団法人「JBCRG」に対して、論文不正を指摘。JBCRGが昨年6月に世界最高峰の米医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』で発表した乳がん治療薬の研究論文について、その問題点を別の米医学誌で明かしたのだ。

 JBCRGの研究では、中外製薬が販売する「ゼローダ」という抗がん剤の臨床試験が行われ、有効性が示された。その際、研究者はこの薬を、厚生労働省が保険での使用を認可しない「適応外」の方法で使用していた。ところが彼らは、薬の費用を健康保険に不正請求していたのである。論文のデータによれば、その総額は1億円を超える。

 もう1つ問題があった。利益相反の不正確な申告である。この「ゼローダ」臨床試験の研究計画書には、調査主体としてJBCRGの名が記載されていた。しかしJBCRGには、中外製薬から2012年以降の4年間で約1億円の資金が提供されており、当然、この点は利益相反として開示されるべきだった。にもかかわらず論文の中では、JBCRGと中外製薬との間の利益相反が正確に申告されていなかった。

 さらに、利益相反を隠すためなのか、調査主体であるはずのJBCRGは、「研究の助成を行った組織」としか記載されていなかった。実際には、当該論文の日本人著者12人中9人がJBCRGの理事などの関係者で、JBCRGの関与は明白だった。

地方病院の不正請求は厳罰

 尾崎医師は、これらの問題点を指摘し、厚労省関係者、日本学術会議関係者、さらにはマスコミにも説明したが、どこも全く動かなかったという。

 私の知人の厚労省関係者は、「明らかな問題ですが、(厚労省傘下の)国立病院機構なども研究に絡んでいて、自らの責任を追及されかねない担当者は及び腰でした」と話す。

 これはダブルスタンダードだ。中小病院が保険を不正請求し、露見した場合、厚労省は厳罰を与える。

 尾崎医師が今年6月まで勤務した青空会大町病院(福島県南相馬市)の前身は、猪又病院と言う。1998年から2003年までの間に計619件、総額587万円の保険の不正請求をしていたことが発覚し、2004年3月に保険医療機関の指定が取り消された。当時、理事長だった猪又義光氏は引責辞任している。

 猪又病院とJBCRGへの対応は対照的だ。地方病院の経営者と医学界の重鎮とでは、対応も違うのだろうか。

 このように渡辺氏、尾崎医師のいずれもが医療・製薬業界の腐敗に大きな問題意識をもっていた。だからこそ今回、医師と製薬企業の癒着を象徴する金銭のやり取りを、主導的に調査したのである。

情報公開を徹底している米国

 彼らは、各製薬企業が公開する医師への支払いデータを、丹念に集計した。総数は22万件。渡辺氏は「膨大な作業だった」と振り返る。

 我が国では、2012年度分より製薬企業から医師へ支払われる金銭データの公開が開始された。これは、米国に倣ったものだ。

 米国では、1999年にペンシルベニア大学で実施していた新薬の臨床試験で、被験者である18歳の少年が死亡した。担当医は新薬を開発する会社の大株主だったが、少年に新薬の副作用などのリスクをしっかり伝えていなかった。この事件は、亡くなった少年の名をとって「ゲルシンガー事件」と呼ばれている。

 この事件以降、製薬企業と医師との金銭的繋がりを透明化しようとする動きが加速し、2010年に「フィジシャン・ペイメンツ・サンシャイン・アクト(サンシャイン法)」が制定された。

 米国での情報開示は徹底している。保健福祉省メディケア・メディケイドサービスセンター専用ページにアクセスし、医師の名前を入力するだけで、製薬企業から受け取った金銭の総額、製薬関連企業の保有株といった情報を簡単に入手できる。データの2次利用も認められており、このデータベースを用いて、多くの学術論文が発表されている。

開示された情報は「画像」データ

 他方、日本の状況は全く違う。尾崎医師は「製薬企業はせこい手段を弄して、情報開示に抵抗している」と憤る。

 尾崎医師がウェブメディア『JBプレス』に寄稿した記事で例に挙げているのは、第一三共。強調されているのは、禁止事項の多さだ。 

 例えば、第一三共は、自社のホームページ上で情報公開を徹底しているという体裁をとりながら、その一方で、「本Webウェブサイトに記載された内容を無断で転載・転用する」などの行為を禁止している。そして、違反が認められた場合には、「情報提供の制限・その他の措置を取らせていただく場合があります」と警告している。これでは、なんのための公開なのか分からない。

 さらに、このような文言に同意して次のページに進むと、C項目「原稿執筆料等」では、そのサブカテゴリーごとの件数と金額が記載されているだけだ。

 個別の医師への支払状況を知るには、専用のフォームに申請者の氏名、会社名、住所、電話番号などの個人情報を記入し、個別に申請しなければならない。

 その後、第一三共の審査を経て、ようやく個別の医師のデータにアプローチできる。米国の状況とは全く違う。

 問題はこれだけではない。第一三共が提供する医師、施設名、金額の情報は「画像」データで、テキストとして処理できないうえにコピーガードが掛けられていて、その画像をダウンロードすることもできない。結果、データを保存するために、スクリーンショットで画面を撮影することを余儀なくされた。製薬企業の姑息抵抗は徹底している。

「年間2000万円」が6人も

 今回の調査を、多くの大学生たちが手伝ってくれた。彼らは、このような画像データを「OCR(光学式文字認識)」で読み込み、1つずつ間違いがないか確認しながら、データベース化していった。

 データベース化の作業は、4月中には概ね完了したが、現在もバグが存在し、修正作業を続けている。それでも、研究に耐えうるレベルのものとなっている。

 そこで我々は分析に着手したのだが、その結果は衝撃的だった。

 2016年度に製薬企業から謝礼金などの形で医師に渡った金は、総額266億円。受け取っていた医師は実に約10万人と、日本の医師全体の約3分の1に上った。

 一部の医師は巨額の支払いを受けていた。年間に100万円以上の支払を受けていたのが約4700人。このうち96人は年間1000万円以上、6人は年間2000万円以上だった。常軌を逸した金額だ。

 私たちは、今回の調査について積極的に取材を受けようと、多くのメディアに調査結果を伝えた。しかし、スポンサーである製薬企業の機嫌を損ねたくないのだろうか、現時点でマスコミからの取材依頼はほとんどない。月刊誌『選択』など広告への依存度が低い媒体だけだ。

「トップ20」に東大から4人

『選択』は今年6月号に「製薬会社と大学教授『果てなき癒着』」という記事を掲載した。読者からの反響が大きかったようで、同誌の6月の「人気記事ランキング」で1位になった。

 この記事では、我が国を代表する国立大学医学部として旧7帝大と旧官立6医科大学を前身とする大学を対象に、製薬企業の支払い額が多い医師、上位20名の名前、所属、専門、金額、支払名目などを紹介した。

 結果を冒頭の表1に示す。トップは千葉大学の横手幸太郎教授(内科、代謝・内分泌)で2000万円。年間に155件の講演などをこなしていた。

 筆者の母校である東京大学からは、秋下雅弘教授(7位、内科、老年病)、門脇孝教授(9位、内科、代謝内分泌)、南学正臣教授(10位、内科、腎臓)、小室一成教授(17位、内科、循環器)の4人がランクインしていた。

 彼らの受け取った金額と講演会などの回数は、秋下氏が1141万円で71回、門脇氏が1126万円で83回、南学氏が1108万円で74回、小室氏が920万円で59回だった。本業そっちのけで、製薬企業でのアルバイトに励んでいると言われても仕方ない。

 東京大学を含め、多くの国立大学法人の職員は「みなし公務員」なので、兼業を規制する内規がある。

 東京大学大学院医学系研究科・医学部の場合、「当該年度1年間におけるすべての兼業(短期兼業を含む。)の報酬総額(見込み額を含む。)は、当該教職員の前年1月から12月までにおける本学の給与総額(前年の途中で採用された者又は新たに採用された者については、当該年の見込み額)を超えてはならない」と明記されている。ここに名前の挙がった東大の教授たちは、内規に違反している可能性が高い。

 知人の東大関係者は、「会計検査院などから、過剰な兼業については指摘を受けています」と言う。会計検査院が問題視するのは、給与の二重支払いだ。教授たちが製薬企業で「アルバイト」している間も、本給が発生し続けている。これでは納税者に説明がつかない。

 ただ大学サイドは、この点を指摘されたら、「『裁量労働制のため、問題ない』と回答することにしている」(前出の東大関係者)そうだ。こんな詭弁を弄していると、国民の信頼を失ってしまう。勿論、兼業のせいで本業も疎かになる。

「ランク外」の京大が見せた生産性

 今回の「支払いランキング」トップ20人が所属する大学は、多い順に東大(4人)、九州大学(4人)、長崎大学(3人)、大阪大学(3人)だ。このような大学の生産性はどうなっているだろう。

 私たちは大学医学部の臨床論文の生産性を調査したことがある。2009年から2012年にかけて、米国国立医学図書館のデータベース(PUBMED)で「コア・クリニカル・ジャーナル」(医学分野で重要性の高い雑誌)に分類された医学誌に、各大学の医師による論文がどれほど掲載されたか。その各大学ごとの数を、それぞれの大学に所属する医師数で割り、「コア・クリニカル・ジャーナル」に論文が載った医師の割合を比較したのだ。結果を表2に示す。

 おそらく、結果は皆さんの予想とは違うだろう。トップは京都大で48.6、次いで名古屋大41.1、大阪大39.4、金沢大 36.9、東大34.1と続く。前出の「支払いランキング」トップ20に、京大、金沢大からは誰もランクインしておらず、名古屋大学も1人だけだ。臨床論文の生産性が高い大学は、教授が製薬企業のアルバイトにあまり時間を割かない傾向があるようだ。

 もちろん、すべての医学部教授が製薬企業とべったりというわけではない。特記すべきは、内科教授が多いことだ。トップ20人のうち、17人が内科教授だ。救急医療、産婦人科、小児科の教授はいない。高額な新薬を使うことが多い内科教授が、製薬企業と昵懇になりやすいのだろう。特に東大のような権威のある大学では、その傾向が強そうだ。

東大教授の信じがたい「言い訳」

 では、彼らは、製薬企業との付き合いをどのように考えているのだろう。

『ワセダクロニクル』は6月29日、「薬価算定トップの秋下雅弘・東大教授、『製薬会社主催の講演会は自粛が必要』」という記事を配信した。その中で、先の「支払いランキング」で7位に入った秋下東大教授へのインタビューを紹介し、彼の本音を引き出している。幾つか抜粋しよう。

「言い訳的になりますけどね、知ってる先生に『先生講演来てください、いついつで』って講演の予定を組み込まれた。で、実はそれにスポンサーがついてます。これ結構あるんですよね。(講演の依頼を)受けた後に、(製薬)会社の人が来て。結構困るんですよね」

 また、こういうのもある。

「教授とかの立場になって、講演会に呼ばれる機会が増えて、アカデミック・アクティビティ(学術活動)としても講演会に行くっていうことは重要なわけですよね」

 さらに、

「今(講演会を)頼まれるうち9割くらい断っています。なるべく行かないように自分の中で自粛、自主規制をかけないといけない」

 俄には信じがたいコメントだ。秋下教授は2016年度に講演会などを71回もこなしている。製薬企業の講演会に多くの時間を割き、巨額の講演料を貰うことに、問題意識を感じているとはとても思えない回数だ。

 問題意識がない点では厚労省も同じだ。実は秋下教授は、厚労省の中央社会保険医療協議会傘下の薬価算定組織の委員長も務めている。薬の値段を決める組織で、製薬企業にとって最も重要な存在だ。その委員は製薬企業との関係に幾ら注意を払っても払い過ぎではない。

 ところが厚労省は、製薬企業から金銭を受け取っているこのような人物を、起用し続けている。秋下教授は、厚労省に製薬企業から受け取っている講演料などの情報を報告しているはずだ。その段階で気づくだろうが、厚労省は東大教授という肩書きだけが欲しく、中身はどうでもよかったのだろう。

 このことは秋下教授も認識していたようだ。『ワセダクロニクル』のインタビューで、こう答えている。

「質問が出ると、(厚労省の)専門官が答える。場合によっては医療課長が。僕なんか全然言わない。間違っちゃったら困るので。細かい話で『うーん』と思いながら、後でちょっと確認することはありますけど。まあそれくらいのもんです。(算定)組織は思ってらっしゃるほど権威も何もない」

 自ら厚労省の「お飾り」と告白しているようなものだ。

閉鎖的な「ムラ社会」

 秋下教授は、筆者にとって灘高校、東大医学部の先輩に当たる。「人柄もよく、能力も高い」と言われている。私は、だからこそ、問題は根深いと考える。大学教授、厚労省、製薬企業が閉鎖的な「ムラ社会」を形成し、ぬるま湯に浸かっている。しかも、その常識が一般社会と隔絶しているからだ。

 当事者たちに問題意識がないばかりか、彼らは問題点を指摘されると、「自分たちは東大教授で目立つから、批判されるのだ」と被害者意識を強める。そして、いつの間にか優秀で人柄のよい秋下教授のような人まで、世間では通用しない牽強付会な屁理屈を言うようになる。こうやって、益々、社会の信頼を失い、ゆっくりと衰退し続ける。

 どうすればいいのか。私は情報開示を進め、オープンに議論していくしかないと考えている。我々と『ワセダクロニクル』の共同調査が、そのための材料になれば幸いである。次回も、この問題を取り上げたい。

上昌広
特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長。
1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。『復興は現場から動き出す 』(東洋経済新報社)、『日本の医療 崩壊を招いた構造と再生への提言 』(蕗書房 )、『日本の医療格差は9倍 医師不足の真実』(光文社新書)、『医療詐欺 「先端医療」と「新薬」は、まず疑うのが正しい』(講談社+α新書)、『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日 』(朝日新聞出版)など著書多数。

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