「よくやったカンテレ!」とねぎらいたいドラマ「シグナル 長期未解決事件捜査班」(TVふうーん録)

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 無事に連載400回を迎えた今回は、ぜひとも大好きなドラマを書きたい。暑苦しく語りたい。関西テレビ制作「シグナル」である。

 周囲に観ている人があまりおらず、「韓国の原作は面白かった」という声しか聞こえなかった。実は私自身も「過去とトランシーバーで繋がるってファンタジーかよ!」と高を括っていたし、坊ちゃん感満載のベビーフェイス・坂口健太郎に一抹の不安を感じていた。

 が、初回から惹きつけられた。1時間枠に無理やり収めず、次の回へ持ち越す手法が、いたく気に入った。たっぷり見せてくれる満足感もある。幼女や女性が殺されたり、権力者や金持ちの犯罪が組織ぐるみで隠されたりと、胸糞悪い事件ばかりなのだが、現在の捜査を警部補の坂口が、事件発生当時の90年代を刑事の北村一輝が追っていく。2人を繋ぐのは、不定期に交信可能になるトランシーバー。

 必ずしもすべて解決とはいかないところもいい。救えない命もある。過去を変えてしまうことへの逡巡(しゅんじゅん)もある。20年たっても、腐敗した権力の横暴は変わらぬまま、という悲劇も健在。

 坂口は大好きな兄を亡くした悲しい過去をもつ。罪を着せられ、口封じに殺されたのは「金もコネもないから」。アメリカ帰りのプロファイラーとして優秀かどうかはさておき、兄の冤罪を晴らしたい熱量が途中からグイグイ伝わってきた。

 北村は今の時代にとんと見かけなくなった熱血刑事だ。被害者にも元犯罪者にも、心を寄せて打ち解けることができるナイスガイ。弱きを助け、涙を流し、理不尽には暴れてでも立ち向かう。妙な懐かしさがある。

 坂口の上司・吉瀬美智子は、刑事になりたての頃に北村を先輩として慕っていた。尊敬プラスアルファで、ほんのり恋心を抱く姿もよかったし、劇中でうっかり1回死んどるし。吉瀬の女刑事姿は、しっくりくる。

 事件関係者も迫力のあるメンツだった。初回登場で真赤な口紅と不遜な態度でワナワナさせた殺人鬼の長谷川京子、娘を殺されて人生を奪われてしまった片岡礼子、女性連続殺人という鬼畜の所業は尾上寛之、その父・モロ師岡は迫真の演技で息子を庇(かば)い、平田満は愛娘を失った復讐を実行。

 未解決事件の根底に「貧乏人や前科者に罪を被せ、金持ちや政治家は安穏と暮らす」という噴飯ものの構図がある。このへんは、いかにも韓国原作だわと思いつつ、いやいや日本の中枢も同じだと。金持ちの言うことは「証言」、庶民や前科者の言うことは「戯言(たわごと)」とな。そんな権力の横暴が警察内部にも蔓延(はびこ)っている。

 議員の犬として全力で尻尾を振って、数々の隠蔽を指示してきた渡部篤郎。その指示に逆らえず加担してきたが、罪の意識に苛(さいな)まれ、消された甲本雅裕。これ、今の日本の中枢の縮図だね。

 骨抜き・関節なしのドラマも多いが、これは骨太どころか、あちこち節くれだって頼もしいやら痛いやら。カンテレ、最終回まで飽きない作品をいつもありがとう。最近、ちょっと荒(すさ)んでいたので、硬派で良質な作品に心洗われたよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年6月21日号掲載

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